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トーチカ通信

[ 2012.09.09 ]未分類

大阪人権博物館

映画「ニッポンの嘘」の公開を記念して、「福島菊次郎写真展」が浪速区の大阪人権博物館で開催されている。今日が最終日である。人権博物館も見たかったので行って来た。

JR環状線の芦原橋駅で降りたのは初めてだった。大阪駅を12時の方角とすると、芦原橋は7時の方角になる。駅から博物館までは600m。整然と並ぶRCの市営住宅を右手に見ながら歩いたが、土曜日の朝というのに、町は閑散としていて、ほとんど人影を見ることなく目的地に到着した。

博物館はいわゆる「箱物」をイメージしていたが、大正・昭和期のモダン建築のような外観である。あとで調べると、1872(明治5)年に大阪府で2 番目の小学校である栄小学校の跡地にその外観を残して造られた建造物だということがわかった。建築当時は日本一の小学校舎だったらしい。当館は全国水平社の大会が催されるなど、人権文化のシンボル的な存在ということだ。

写真展は、映画を観たばかりだったので、一枚ずつの写真に、そこにつながる長い物語を知っている。どの写真にも福島さん自ら書かれた小さな文字の解説文がついているので、読むと復習になり、さらに理解が深まる。会場は小さな部屋だったが、たっぷり1時間滞在し、昭和の戦後史を勉強した。下の写真が会場。

人権博物館の常設展示は、被差別部落、在日コリアン、沖縄、アイヌ、障害者、ハンセン病問題、ホームレス、HIV、セクシャル・マイノリティなど、広範な人権問題を正面から取り上げている。大阪では、昭和40年代から同和問題についての学校教育が始まったが、あれは全国的に展開されたのだろうか。今、福島では、広島・長崎で被爆者が苦しめられたものと同じ差別が起き始めている。差別は人の心に巣食い、目に見えにくい。忘れずに心に留めておこうと思った。

最後の方では、この地域の伝統産業である、皮、皮革、和太鼓などの製造技術の紹介もあった。ビデオの閲覧もできるし、出前講座や解説つきの街歩きも頼むことができる。

いい展示なのだが、最初から最後まで、なんとなく違和感があった。デザインというか、コンセプトに一貫性が欠けていると感じたのだ。

常設展示を出たところに、博物館の存続を求める署名用紙が置かれていた。橋本市長と松井知事が補助金の打ち切りを決定したことをそこで知った。これは事実上の廃館の決定である。ネットで調べると、1年前に橋本市長が、「内容が暗すぎる。子供に夢や希望を与えることができない」といって、展示の見直しを命じている。私が見た展示はその命をうけてリニューアルしたものだったことがわかった。まじめな展示資料の中に、なにか子供に迎合する甘いデザインが混じって、気持ち悪さを感じたのは、これが理由だったのだ。

橋本・松井両氏があらためて、リニューアルされた展示の視察に訪れ、「僕の考えに合わない」といって打ち切りを決めたらしい。確かに、展示はもっと工夫の余地はあるし、HPで公表している財務諸表を見ると運営にも疑問は感じる。しかし、改善のための協議もなく、課題を与えて結果が合格点以下だったから、切り捨てるという成果主義を、こういう文化施設で単純に振り回されては困る。

博物館を出たときに、見学にやってきた子供たちに出会って、利用されている様子にほっとした。写真展を見に行って、思わぬ問題に直面した。もし、まだご存知なければ、人権博物館を訪れてください。いろんなことを複合的に考えさせられます。http://www.liberty.or.jp/