福島レポート2012年夏 (その5)|トーチカ通信|桃李舎一級建築事務所

トーチカ通信

[ 2012.10.15 ]原発・福島・東北

福島レポート2012年夏 (その5)

次の日は雨で肌寒かった。福島市内のルーテル教会を訪問した。私はルター派のプロテスタントの教会に属しているので、同じルター派の教会なら、世界中のどこでも親戚のような親しさで訪ねることができる。牧師の野村先生は、おいしいコーヒーを沸かして、迎えてくださった。雨に濡れて冷えた体が、コーヒーで温まり、福島に着いて、初めてほっと息をつけた感じがした。

「敷地内は0.4μsv/hぐらいですが、樋の下の排水桝のあたりは高いです」と、先生はお天気の話をするように放射線量の話をされた。大阪の10倍くらいの線量である。教会は木造なので地震では祭壇の後ろの壁が落ちたが、怪我人もなく守られたと聞き安堵した。

震災後、教会のネットワークを活用して、「東北ヘルプ」(正式名称は「仙台キリスト教連合被災支援ネットワーク」)が組織され、東北全体を支援する活動が行われている。活動は、弔い、心のケア、食品の放射能計測プロジェクト、生活支援など多岐にわたる。

野村先生がされている活動の柱は4つある。1つ目は、除染である。基本的に自治体がしてくれるが、敷地内は日頃からチェックして自主的に除染されている。2つ目は、地域の子供たちの支援。福島では放射能被害から守るために、親は子供を外で遊ばせない。教会では、ストレスのたまった子供たちを外でのびのびと遊ばせるために、週末は長野や新潟まで避難キャンプに連れていく。3つ目は食べ物である。特に子供たちのために、長野県から無農薬野菜を届けてもらっておられる。4つ目は市内にある8ヶ所の仮設住宅の訪問である。教会員のみなさんは、自らも被災しながら地域の奉仕活動をされている。

ここは年間の被爆量は5~10msvになる。野村先生はご夫婦で富山から着任されたばかりで被災された。それでも教会にとどまられた。2人の宣教師さんも、母国から帰国勧告が出たが残られた。町に住んでいる人がいて、教会がそこにあるからだ。

教会ネットワークは、食品の汚染度を測定するベクレルモニターを購入し、養護施設など県内6ヶ所に設置した。ベラルーシ製で本体価格は170万円である。これを、原則、無料で貸し出している。主に近隣の農家で生産した農作物の測定、田畑および果樹園の土壌放射能の測定に使用されている。

農協や公的機関では、地域全体としての農産物の測定はしているが、個々の農家の農産物の測定はしていない。自分の農作物や土壌の測定を依頼すると、業者にもよるが、五千円から二万円の費用がかかるらしい。福島の農家ではこうした放射能測定機器が、本当に必要とされている。6台のベクレルモニターは今もフルに活用されているだろう。

「まち家具」の話をすると、子供たちの安全な遊び場をつくるという点を評価してくださった。子供たちが福島を離れ、宣教師さんの英会話教室に来る子どもが減ったのだそうだ。

掃除が行き届いた木造の礼拝堂は、どこかなつかしい、質素だが清潔な聖霊に満ちた空間だった。先生は聖書の1節からショートメッセージをして祈って下さった。両手を組んで目を閉じると、湿った闇の中に雨の音が聞こえた。・・心が調律されていく。世界から隔絶されたような孤独と同時に、全てとつながっている不思議な感覚に包まれた。