第23回 地下発電所 「日本と中国」 (下)|トーチカ通信|桃李舎一級建築事務所|大阪の建築構造設計事務所

トーチカ通信

[ 2012.11.11 ]地下発電所

第23回 地下発電所 「日本と中国」 (下)

食事をしながら、尖閣問題にまつわる日中関係の話になった。

今回の対立は、石原慎太郎の「東京都が島を購入する」という唐突な宣言が直接的な契機となっている。事態の収束のために、日本政府は買い上げの方針を発表する。中国側は容認しない旨を伝えるが、日本は応答しない。そこで、ロシアで開催されたAPEC首脳会議の場で、胡錦濤主席は、野田首相に直々に、日本の国有化に反対の意思を申し入れる。しかしその2日後に、日本政府は国有化を閣議決定したので、胡錦濤主席は完全に面子(メンツ)をつぶされた形になった。

高杉さんは、日本は、中国がどれほど「面子」を重んじる国かを理解していないと言った。中国国民の間にも面子を傷つけられたという感情が広がってしまったと。

泉原さんからこれまでの経緯も聞いた。

胡錦濤氏は、先に書いた亡き胡耀邦を師と仰ぐ、親日家である。遡れば、1972年の日中国交正常化交渉で、周恩来首相は田中角栄首相に、「この問題にはしばらく触れないことにしよう」と言って尖閣問題を棚上げした。さらに、1978年の日中平和友好条約の制定時には、鄧小平が「私たちの世代より、次世代の方が賢いはずだ。これは次世代が解決するだろう」と先例にならって棚上げした。

胡錦濤氏にとっては自分の代で、解決どころか悪化させ、忸怩たる思いだろう。高杉さんは、タイミングも悪かったという。日中国交正常化40周年の今年、さらに11月8日に中国共産党の党大会を控えた時期に、国際的な注目が集まる中で面子をつぶされた。胡氏が怒るのも無理がない。

高杉さんは、国内のデモや暴動については、あれは一部の暴徒のやってることだと強調した。中国にはデモの権利がないので、蓄積した不満を発散するために、尖閣問題に乗じているという。日本人が経営する店舗に投石する暴徒の後ろでは、「理性愛国」「反対暴力」と書いたプラカードを持って批判する人たちも大勢いたのに、どうしてそれを報道しないのか、嘆いていた。


私は中国や韓国などのアジアの人と話をするとき、かつて日本が行った残虐な侵略行為に対する罪の意識に心が囚われて、相手の目を見ることができなくなることがある。この後半の会話の行きつく先が怖かった。

やはり戦争の話になった。泉原さんが、かつて日本軍が中国で行った行為は「三光作戦」と呼ばれていると解説した。「光」は「~し尽くす」という意味がある。「三光」は、殺し尽くす・焼き尽くす・奪い尽くすであると。

日本軍が南京を攻めるときに経由した蘇州などでも、 今回の反日デモや暴動、略奪が起こった。それに加担した人たちの出身が、南京大虐殺を引き起こした日中戦争の激戦区であったという。

高杉さんは、全てを知った上で、それを乗り越え、次世代の自分たちが、民間レベルで交流を深めることが大切だということ何度も言った。息子さんに卓球を習わせ、両国の交流のために役立てたいと思っている。その口調と私たちを見つめる目の強さから、それは心からの願いであることが伝わってきた。

現代の問題は、背景の歴史を踏まえないと正しく捉えることはできない。今回の集会をきっかけに、中国の歴史を復習できたことはありがたかった。新聞を読むときの助けにもなっている。

集会の夜から中国のことが頭を離れない。私たち民間レベルでは、友情は成立する。外交問題ともなると友情は難しいとはいえ、やはり突詰めれば、誠実さと人間性である。中国の文化と歴史を深く理解し、中国語が自由に喋れる外交官や専門家には、心ある交渉によって、領有権や危機管理、海洋資源についての具体的な妥協点を見つけてほしい。そして天皇は中国と韓国に行って、正式に謝罪しなければならないと思う。

私たちにできることを考えた。あせらず、両国の歴史を勉強し、このような個人レベルでの交流により、「領土問題の悪循環を止め、東アジアの平和を維持したい」という思いを共有する努力を続けることかと思う。さらには、このような民意をソーシャルネットワークなどを使って「見える化」することも必要だと思う。

高杉さん、泉原さん、高杉さんをご紹介下さった椿本さん、ありがとうございました。