森は海の恋人/森里海連携学と復興 (その2)|トーチカ通信|桃李舎一級建築事務所|大阪の建築構造設計事務所

トーチカ通信

[ 2013.01.30 ]森・里・海

森は海の恋人/森里海連携学と復興 (その2)

海と森のつながりは深い。畠山さんの著書(上は表紙を広げたところ)によると、その昔、海上での船の方向や位置、距離の測定、天気予報などの情報を、漁民は海から見える山の姿で判断していた。それを「山測り」と呼ぶ。「漁民にとって海から見える山は命であり、覚えた山測りは財産」だった。船も漁具も森の産物から造られる。「木造の船は、海に浮かぶ森」であった。

まだ葉のついた楢や栗などの広葉樹を切り、枝をしごいて葉を落とした箒のようなものを、逆さまにして海に突き刺しておくと、海苔が付く。ホヤの仕掛けも広葉樹だ。ホヤの養殖につかうロープは4年間、海に浸けても腐らないものでないといけない。天然素材では「山葡萄のつる」しかなかった。本の書き出しをさっと読むだけでもこれだけ出てくる。

国土の67%が森に覆われ、海に囲まれた日本は、水資源に恵まれている。田中先生の論文にはこうある。「海から蒸発した水蒸気は雨や雪となって森を育み、森で涵養された水は川や地下水脈を通して海につながり、海の生物生産を育んできた。白神山地のブナ林を日本海が育て、日本海のヒラメの稚魚を白神山地のブナ林が育ててきた」

お二人の対談からも興味深い話が伺える。海のプランクトンには「鉄」が必要なのだそうだ。鉄は酸素と出会うと錆びて海底に沈むから海には鉄が少ないらしい。ところが、豊かな森の腐葉土層を通った水には溶存鉄(ようぞんてつ)という水に溶ける鉄が含まれている。鉄をたっぷり含んだ水は、稲の生育にも大事な役割を果たし、川や地下水脈を通って海に流れると、海の生き物を元気にする。

日本には昔から「魚附林(うおつきりん)」という考え方があって、水辺に森を作ると、海に生き物がたくさん来て、漁業が持続するという。畠山さんの植林も魚附林を作っているということになる。

世界有数の大河、アムール川の調査でも、この森と海と鉄の関係が解明されたらしい。さらに、川の流域の湿地帯も非常に大事な溶存鉄の源だということもわかった。ところが日本のほとんどの川はコンクリートで囲われているので、湿地帯はほとんど消滅している。

長良川河口堰の建設は、反対運動が実らなかった。しかし、気仙沼にダムの建設が持ち上がったとき、気仙沼の牡蠣の養殖に与えるデータが反対運動に役立ち、時代の後押しもあってダムは見送られたと畠山さんはいう。

田中先生は、有明海の諫早湾でも調査をされている。「日本の沿岸部の環境の劣化と沿岸漁業の衰退の原因の一つに、浅海域の生物的な浄化機能の衰退があげられる」という。たとえば、「沿岸汽水域に棲むカキは一日に海水200ℓをろ過し、あさりは2ℓをろ過する」と言われている。

「干潟域の多様な無脊椎動物の海水ろ過機能は非常に高く、諫早湾に広がる泥干潟は、人口30万人規模の都会の人間活動の終末産物を浄化する能力があった」のだそうだ。堤防の設置で干潟はすでに消失し、堤防の内側の水は汚濁して有害プランクトンが発生し、漁業に打撃を与えている。