[ 2013.04.13 ]森・里・海
猫新聞を見て、緊張がほぐれた私は、「湯堂で釣りをしている人をたくさん見ました。海はきれいになったんだなと思いました」と言った。そのとたん、「きれいになんか、なっていませんよ!」と、ぴしゃっと否定された。人は汚いものをみんな海に流すので、今も海は汚れているということをおっしゃった。
私たちがお話をしている間に、ドアが開いて、買い物の袋を提げた上品な男の人が入って来られた。石牟礼さんが「渡辺京二さんです」と紹介して下さった。その方はにこやかに頭を下げて、横を通り過ぎていかれた。
おいとまするときがきた。立ち上がったとき、友人が「握手してもいいですか?」と言った。握手した手はとても小さくて柔らかかった。そのとき石牟礼さんは、友人が首にかけた手染めのマフラーに目をとめて「きれいねぇ」とおっしゃった。さっきと同じ満面の笑顔で。友人は「インドの手染めです」と嬉しそうに答えた。
二人で車に戻って、背もたれに体を預けて、しばらく何も言えなかった。
水俣の旅はここで終わるのだが、実はまだ続いていた。この連載の(その一)で紹介した百武充さんから先週の土曜日にメールが届いたのだ。「今日の朝日新聞の『Be』を見てください。渡辺京二さんが紹介されています」
石牟礼さんのお部屋ですれ違った方だ。苦海浄土のあとがきを書かれた評論家の渡辺さんだった。こんな偶然ってあるのだろうか。繋がっている・・。朝日新聞の取材は私たちが訪れた次の日だった。三回の連載のようで、今日の新聞にも載っていた。この長いブログを読んで下さったみなさんありがとうございます。朝日を取っておられたらぜひ読んでください。
東京から飛んできて、気狂いじみたスケジュールの旅につきあってくれた友人には、ほんとに感謝している。別名、羊飼いさん、東京で百武さんとで3人で会える機会を楽しみにしています。水俣への旅はまたそこから新たに始まるのだと思います。