[ 2013.06.07 ]未分類
大切な友人が急死した。同級生なのでまだ53才である。夢の中にいるような、ふわふわした感覚で、お通夜とお葬式に出た。棺に納まった彼に確かに別れを告げたのに、まだその死を受け入れられずにいる。
彼は、大学では確か文系だったはずだが、卒業後、父親の会社である神山製作所に入社し、猛勉強をして後を継いだ。それは金型を設計し製作する会社である。
身の回りに溢れているプラスチックの製品、たとえば携帯電話、パソコン、マウス、どんなものも、金型で成型されている。日本はものづくり大国と言われるが、日本の製造技術を世界一のレベルに押し上げたのは、この金型技術があったからだ。
金型の説明によく使われるのが、たい焼きである。鯛の形にくぼんだ、2枚の鉄の鋳型に小麦粉の素を流し込で、開くと、たい焼きが出来上がる。そういえば簡単だが、複雑な形状のものは、金型を何ピースも組み合わせて、あとで分解できるようにしないと、プラスチックを流し込んだ後、取り出すことができない。その3次元の設計は、素材、機械設計、時には構造力学の知識が必要で、製造においては、精密機械の金型の場合、ナノ単位の精度が要求されることもある。
神山製作所は私の事務所から自転車で5分のところにある。ステンレス鋼を切削し、研磨する音、町工場独特の油の匂い、年季の入った計測器の数々。それらに囲まれていると、日本の製造業を支える中小企業の心意気と自負が伝わってきて、元気づけられた。居心地がよくて、ずーっと見ていても飽きなかった。
仕事に疲れたら、「ちょっと行っていい?」と電話をして自転車を走らせた。彼も、日曜日に一人で仕事をしているときは、同じように仕事をしてる私の事務所に「やってんのか?」と電話をかけてきた。何度か差し入れをしてくれたこともある。同じものづくりの立場で、共有できるものがあった。
金型の業界が置かれている状況は厳しく、近年は、中国や東南アジアのサプライヤーに価格競争で敗れ、廃業する会社が増えていた。神山製作所は独自のノウハウを生かして、果敢に新製品に挑戦していたが、高額な設備投資の重責で、心労が続いていたのだと思う。
日曜日の夜に工場で心筋梗塞で倒れたのをお父さんが発見した。
ここ数年は、電話では話していたが、工場をのぞいてなかった。自転車で前を通ると灯りがついていて、やってるなと思っても、時間に追われていて、また今度にしようと思って通り過ぎた。2週間ほど前に、近くに来たからと会いに来てくれたのに私は外に出ていていなかった。またそのうちと思いながら電話もせずに済ませたことが、悔やんでも悔やみきれない。何を話そうと思っていたのだろう。今夜は、ニール・ヤングをオートリピートで聴いている。
残されたご家族に神様の慰めと、励ましがありますように。3人の子どもたちが、まっすぐに育ってくれますように。言い表せない感謝の気持ちを込めて祈る。