友人の死を通して考えたTPPがもたらすもの|トーチカ通信|桃李舎一級建築事務所|大阪の建築構造設計事務所

トーチカ通信

[ 2013.06.12 ]未分類

友人の死を通して考えたTPPがもたらすもの

亡くなった神山君のことでは励ましの手紙やメールを頂き感謝します。その中で、こんな言葉を戴いた。『高度の技術を持った町工場のことも考えるとどれほどの損失か。発見されたのがお父さん、どれほどの悲しみでしょうか。息子の命と製作所の将来の両方を失われ、永遠に取り返しができない。被災地の死にも同じような喪失一つ一つがあったのでしょうね』

被災地のことを私も思った。亡くなった人々だけでなく、現在避難生活をしている人々や、震災がきっかけで人生が変わった人々、個々の喪失の痛みを想像した。

もう一つのメール。『年上の人は順番ですから仕方ないのですが、同年齢の人や年下の人が亡くなるというのは、こころは痛むまえに衝撃を感じます。亡くなるのは、いろんな原因があり、それなりの結果といえば、それまでですが、「悔いが残る」というのは残念なことです。必要なのは「振り返る」ことではなく、「前に向かう」ことです。それが故人に対する一番の弔いです』

「悔いが残る」という言葉など、使ったことがなかったのに、口にするようになったのは、震災以降だ。取り返しがつかないと思うことがある。人との別れに痛烈な悔いが残る。

そして、自分自身のことから離れて、時間をさかのぼり、戦争で、死ぬ理由もわからずに死んでいった人たちの無数の無念を思う。生き残った者たちの無数の後悔が「平和憲法」を作ったのに、それを今手放そうとしている。原発事故直後の節電で暗くなった街で、胸に抱かえた無数の後悔を蹴散らして、原発は再稼動を始める。あきらめないけれど、強い気持ちを失いそうになるときがある。

けれども、神山君のことで、いつまでも泣いていてはいけないと思ったのは、先のメールをもらって、彼といっしょに消えてしまった「技術」の損失に気づいたからである。全国の町工場で同じようなことが起きているはずである。そして今日届いた消費者情報6月号で、内田聖子さんの『TPPが私たちの生活にもたらす影響』を読んで、友人が追い詰められていた、アジアの安い労働力に敗れる状況を重ね、怒りで涙が乾いた。

その記事の論点は、TPP協定は多国籍企業による「世界の市場化」を仕上げるためのプランであるということだ。TPPに入れば海外から大量に外国人労働者が入ってくることが指摘されている。すでに日本ではアジアからの労働者の賃金は圧倒的に安い。そもそも、国籍や人種によって、賃金格差があることが問題なのだが、利潤を追求する企業に、人権意識はない。「コスト削減」で安く使える人を使いたい。

3月15日、政府の諮問機関である産業競争力会議(今の時代にまだこういう言葉が使われるとは!・・誰との競争で、誰のための勝利なのだろう・・)では経済同友会の長谷川代表幹事(武田薬品社長)が、「企業の法人税減税」「雇用規制の緩和」「派遣法のより柔軟な運用」を盛り込んだ提言書を出した。内田聖子さんは、実は、国内的な規制緩和や労働基準の切り下げは、TPP参加とセットで進められて行くと書いている。これは全ての労働者にとって脅威になると。

そして、消費者に「安ければそれでいいのか?!」と問う。TVや雑誌はTPPに入れば海外から驚くほど安い値段でモノが入って来て、家計が圧縮できるという論調だが、それでいいのかと。

TPPの実態はなかなか報じられない。「国と国との貿易交渉」のように見えるが、実はすべてを牛耳っているのはアメリカを中心とする「多国籍企業」である。「TPPを推進する米国企業連合」には、モンサント、シェブロン、ウォルマートなど名だたる企業が加盟している。人権という人類が長い歴史をかけて獲得してきた理念、労働法、環境規制、各国の文化の上に立つ法律や制度が、「多国籍企業の利益」の前では、取るに足りない問題に成り下がる。許されていいはずがない。

TPPの問題点を適確にとらえて、自民党の公約破りを強く訴え、NOを突きつけないといけない。