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トーチカ通信

[ 2013.06.18 ]本・映画・演劇・美術・音楽

よみがえりのレシピ

映画『モンサントの不自然な食べ物』のことをブログに書いたら、幾人かの人に、この映画を勧められた。大阪で見逃したので、昨夜、宝塚シネ・ピピアで観てきた。

これは、山形県の農村を舞台に繰り広げられる、在来作物を守り継ぐ人々のドキュメントである。在来作物とは、先祖代々にわたって「種」を守り、直伝の農法で栽培する、その土地固有の作物のことである。

畑の土を触った記憶は、小学校の遠足で行った私市(きさいち)の芋掘りしかない。今でも石をひっくり返してゲジゲジやミミズが出てくると、ワッと飛びのく都会育ちである。だから映画の中の畑のシーンはことごとく珍しい。登場する小学生と同じレベルで、きゅうりの瑞々しさに見とれ、「種」の神秘に驚いた。いまだに、あれは何をしていたのか、わからない場面もある。

在来作物は、品種改良をした野菜に較べて栽培が難しく、日持ちや見栄えがよくないので、市場では敬遠される。栽培する人たちの高齢化とともに、在来作物はどんどん消滅しているらしい。「種」を残す人がいなければ、その野菜は二度と作ることができない。

一つの野菜が消滅すると、その味や風味だけでなく、栽培、保存、調理の方法など、受け継がれてきた固有の文化も一緒に消える。映画には、在来作物を地域の「生きた文化財」と捉え、絶滅寸前の作物を蘇らせようとする人々が登場する。

イタリアンレストラン「アル・ケッチァーノ」のオーナーシェフ、奥田政行さんは、とれたての在来種の野菜を、ソースをできるだけ使わないで、オリジナルな料理法で食卓に提供する。おいしい料理に人々はみんな笑顔だ。生産者が、イタリア料理に変身した自分の野菜に驚いている。食と農業の豊かな関係が表れた、幸福なシーンだ。

随所で登場する山形大学農学部准教授の江頭宏昌さんの解説がとてもいい。焼畑のシーンは、文化人類学の講義のようだった。雪の中を掘り返して採れた雪菜は冬場のビタミン源であり、サトイモは飢饉に備える命綱である。同じ野菜を食べた大昔の人々と現代人が共感で繋がっていく。

大根を混ぜて炊きあがった湯気が上るご飯。ぼってりした器に盛られた古漬けの大根。酢漬けのカブ、ふかしたてのサトイモ。とにかく野菜がおいしく見える映画で、晩ご飯前に見るのはキツかった。

当然、監督はTPPのことも念頭にあり、訴えたいことはあるはずだが、言葉にはしない。美しい自然と、とつとつと収穫の喜びを語る農村の人々を丁寧に撮っている。

監督は1982年生まれの渡辺智史。東北芸術工科大学在学中に東北文化研究センターの民俗映像の制作に参加している。毎年、山形国際ドキュメンタリ映画祭を継続する土壌が、この若手の映像作家を育てているのは確かだ。