札幌の森|トーチカ通信|桃李舎一級建築事務所

トーチカ通信

[ 2013.06.23 ]森・里・海

札幌の森

先週の金曜日は、北海道日建設計で、桃李舎の仕事について話す場を戴いた。友人の建築家で、北海道大学で教える小澤丈夫さんにも来てもらえたので、私たちが出会うきっかけとなった13年前の女子寮の設計を一緒に振り返えることができた。夜の懇親会は、設計部の皆さんと豊かな海の幸に感激しながら盛り上がった。山脇克彦さんを中心に、美しいポスターを作って暖かく迎えて下さった日建設計の皆さん、どうもありがとうございました。

その日の夜は、大学の同級生で、札幌で事務所を持つ友人が、飲みながら待っていてくれた。普段、電話もメールも全くしないのに、2日前に「会える?」という電話をすると、仕事の予定もあるだろうに、「24時間、いつでもいい」と、それだけ言って電話を切り、その後、確認のメールも来なかった。でも、懇親会の後、電話をすると待っていてくれた。

札幌で彼と会うのは初めてだった。飲み始めて、しばらくたった頃、仕事場から家に帰るときに、ときどき北大の構内を歩くという話を、彼が始めた。森のように大きな樹がたくさんあって、深夜、一人で歩くと、この世のものと思えない美しさだという。情景を思い描きながら聞いているうちに、その大きな楡の木や柳を見たくなって、「今から連れて行って」と頼んだ。先日亡くなった友人もそうだが、同級生というのは特別だ。普段は甘えない私が、こんなことをすらっと言ってる。そして、深夜1時の散歩となった。

霧のような雨が降っていたが、かえってしめやかな土や木々の緑の匂いが立ち込め、霧が幻想的な森を演出をしていた。校舎は闇に沈んでほとんど見えない。舗装された歩道を外れて、芝生の中に入ると、樹齢100年をとうに超える巨木が両側から枝を伸ばし、重なり合った葉が細かい雨を遮ってくれる。傘はいらなかった。楡の樹の雄大なシルエットに、子供の頃の童話の挿絵で見た外国の森を思い出した。近づいて見上げると、雨がミストのように顔を濡らす。

見たこともない大きな柳が、手が触れるところまで、枝を下ろしている。彼がいつも挨拶をする樹はこれらしい。葉っぱを軽くひっぱって、私も挨拶した。この大きな美しい空間を、2人で独占しているというこの上もない贅沢。

「ほら、こいつ見て」と彼が1本の樹に連れていく。枝が滅茶苦茶な方向に張り出して、葉がからみ、寝起きの髪のようにボサボサだ。幹に触って「おまえ、何やってんのさ」と話しかけている。あちこちに気になる樹があるらしく、1本ずつ友達のように紹介してくれる。

札幌生まれの彼は、アイヌの人たちの家や暮らしの調査を手伝ったことがあるらしい。アイヌ語のこんにちは、「イランカラプテ」で、「あなたの心に、そっと触らせてください」という意味なんだと教えてくれた。言葉にならない思いがあふれて、何も言えない。

翌日は、お昼前に彼の事務所に行って、午後は大通公園を一緒に散歩した。大通公園は全長1.5km。街の中に、こんなに緑をたっぷりと抱えた公園があるのがホントに羨ましかった。緑が気持ちいいから、どれだけ歩いても疲れない。花フェスタで賑わう公園は、短い夏を楽しむ風物詩なのだろう。

夕方に、同じく大学の同級生で、同級生どうしで結婚して、札幌で事務所をもつ彼らと合流した。40人のクラスのうち3人が札幌にいるのだ。友人夫婦は法事の帰りだといって喪服で現れた。みんな突然の来客に、文句を言わずに会いに来てくれる。友達と、大きな樹の恵みに気づかされた札幌小旅行だった。松井君、巧さん、手嶋君、ありがとう。札幌の街が好きになりました。