[ 2013.08.25 ]トーチカのイベント
「中世に出会う会」の2日後、会に参加した展覧会のお客さんから、手紙が届いた。木村正樹さんの友人のIさんで、私より少し年上の男性の方である。抜粋して紹介したい。
「あの中世古文書の解説は素晴らしいものでした。実感のもてなかった歴史の中の空気、人の生の息づかいが、リアルに垣間見れて、生まれて初めてタイムスリップ感覚に陥る程の強烈なインパクトでした。先生の名調子も美しい祝詞のように未だに耳に残っております。・・略・・歴史が突然、昔話ではなくなった貴重な体験でした」
もの静かな方だったので、こんなに楽しんでもらっていたとは、手紙を頂くまで気づかなかった。Iさんは、東京芸大の出身で、NHKの大河ドラマの美術の仕事をしていたが、思い立って退職。故郷の福島県に戻って、有機農業で第二の人生をスタートした矢先に東北の大震災で被災し、今は倉敷で避難生活をしているのだ、と木村さんから聞いた。
大阪は30数年ぶりだったらしい。戦前のコミュニティが残るこのまちの印象を
「東京が失ってしまったあの70年代にはあったどこか寺山的な風のにほいが漂っている」
と綴り、トーチカのことは、こんな風に書いて下さった。
「トーチカはギャラリーというよりも、元気な精神の大人達の為の良質な空間と映りました。そして、木村さんの作品力も減衰させることなく、支えてくれる、倉庫スタジオの匂いの残る中性的な環境でした。この感触も東京の画廊や作家が元気だった頃を思い起こさせてくれる、有難いものでした。もしかすると、大阪は東京の轍を踏まずに歩んでいくのかもしれないと・・・そんな思いに包まれて倉敷に戻りました。刺激的な時空を体験させていただき、有難うございます」
トーチカを作ったとき、こんな風な場所になればいいなと思っていた。トーチカは地域になじみながら、育ってきたが、方向性は間違ってないらしい。Iさんの手紙に、励まされた。
Iさんの手紙はペンで書かれていたが、一度も修正のあとがなかった。さらさらっと、気持ちがそのままペンに乗るようなスピード感があって、絵画的な美しい手紙だった。私は、気持ちが走ると、すぐ字を間違えるので、修正テープであちこちが白く光って汚い手紙になってしまう。おまけに、すぐに手紙が書けない。貰えばこんなに嬉しいのだから、人にもそうしようと、そのときは思うのだけど、ちょっと後回しにしてるうちに、タイミングを逃してしまう。
Iさんが、福島県の人だったのも、何かの縁だ。今から始まる、福島のプロジェクトにぜひ、何らかの形で力を貸してもらいたいと思っている。