松岡正剛の工作舎と雑誌『遊』|トーチカ通信|桃李舎一級建築事務所

トーチカ通信

[ 2013.09.02 ]本・映画・演劇・美術・音楽

松岡正剛の工作舎と雑誌『遊』

今年の4月から4ヶ月間、ちょっと変わった通信講座を受けていた。松岡正剛の編集工学研究所が主催するISIS編集学校の講座である。なんとか修了して、先日、「感門之盟」という名の卒業式に出席した。会場は東京の豪徳寺にある編集工学研究所。どの部屋も、壁が天井までの本棚で覆われていて、蔵書5万冊が納まっている。背表紙を一旦、眺めてしまうと、いつまでも目が本を追ってしまう。案内されて、決められた座席に着くと、なんとそこは松岡校長の隣だった。

出会い頭で、松岡正剛に挨拶するシチュエーションなんて、想像していなかったので、あわわ・・となりながら「30年ほど前の大学時代に、工作舎の『タオ自然学』を読んで、人生が変わりました。卒論は思いっきり影響を受けた章立てになりました」というようなことを話すと、「懐かしい本だねぇ」とおっしゃった。

松岡正剛は、1971年に工作舎を立ち上げた。編集長として、雑誌『遊』(1971年~1983年)を刊行する。『遊』は、杉浦康平の不思議なデザインの表紙をまとい、中には、現代思想、音楽、アート、建築、文学、民俗学、演劇、サブカルチャーがジャンルを超えて編集されていた。編集方針は「理科系と文科系をまぜこぜにする」というもので、これを「遊学する」と呼んでいた。それまで見たこともない雑誌で、世界の知に出会えた。

今ほど大きな書店が多くなかった頃、東梅田の旭屋書店に行くと、必ず、エレベータのすぐそばにあった工作舎の本棚を眺め、『遊』のバックナンバーをめくった。『平行植物』、『全宇宙誌』、『白蟻の生活』・・今も、本棚の背表紙の並びを思い出すことができる。

『タオ自然学』は1979年に発行された。著者は物理学者フリッチョフ・カプラ。現代物理学と東洋の神秘思想との相同性、相補性を説いたもので、先端の物理学の理論と、老子の言葉が隣り合わせに並んでいた。私の卒論は、五重の塔の振動解析がテーマだったが、この本にかぶれて、「なぜ五重塔は地震で倒れないか」という問いへのアプローチを、振動理論と、塔の精神性の両面から試みた。構造の論文なのに、詩を挿入した変わった論文になった。

「この本との出合いが人生を変えた」というのは、大げさだが嘘ではない。演劇部に入って、アングラの芝居を見始めたのも、この本を読んだ直後である。人生のある分岐点となったのは確かだ。建築の構造事務所に「桃李舎」いう中国の故事にちなんだ名前をつけたのも、構造事務所を主宰しながら「トーチカ」を運営しているのも、ルーツは、ここかもしれない。前回のブログで紹介したI さんが、トーチカに70年代の空気を感じて下さったのも、不思議ではないのだ