美しいものを見た|トーチカ通信|桃李舎一級建築事務所

トーチカ通信

[ 2014.02.15 ]未分類

美しいものを見た

昨日は大阪も、一面、真っ白な雪に覆われた。透明な冷気の中に広がる清浄な世界。
そんな雪の日の明け方に、美しいものを見た。

19才の華奢な体が氷盤の上を妖精のようになめらかに滑り、舞う。その中性的な容姿は、萩尾望都が描いたギムナジウムの少年が舞い降りたように見えた。望遠レンズは、激しい息使い、ジャンプの前の鋭い視線、ミスに震える睫毛を完璧に捉え、彼が生身の人間であることを映し出す。それでもこの世のものと思えなかった。

羽生結弦が金メダルに輝いた。冒頭で転倒した4回転ジャンプは究極の技である。大きな技には大きなリスクが伴う。4回転ジャンプをこう表現した人がいた。

「細いワイヤーの上に自分がいるところを想像してほしい。あなたは、時速20マイルのスピードで、細いブレードでその細いワイヤーの上を進んでいる。そしてあなたは、自分の体を空中に投げ出し、4回回転することに成功し、細いワイヤーの上に細い刃のブレードで再び着地しなければならない。これはそういう技なのだ。」

フィギュアスケートでの4回転ジャンプの評価をめぐっては、技術か芸術性かという論争があった。前回のオリンピックで、「4回転ジャンプが無いなんて、それは男子のフィギュアスケートではない。」と言い放ったプルシェンコは、昨日のショートプログラム本番直前の練習で腰を痛め、棄権を伝えた。羽生選手は彼に憧れスケートを始めたという。

プルシェンコはその直後のインタビューで引退表明をし、こう言った。「羽生選手のジャンプは素晴らしい。彼はフィギュアの未来だ。私は彼のヒーローだったかもしれないが、今は彼が私のヒーローだ。」世代交代の場面はいつも胸が熱くなる。銀メダルのパトリック・チャンが、羽生に向けた晴れやかな笑顔も素晴らしかった。高橋大輔の演技も吸い込まれるように見入った。随所にドラマがあったプログラムだった。

フラワーセレモニーの後、羽生選手は日の丸の国旗を肩にかけて、リンクの外周を滑った。みんながよくやるこのセレモニーはあまり好きでなかったが、今朝は違った。華奢な身体に張りついた国旗は、蜻蛉の羽のように薄く、儚げに見えた。スピードが出ると、風に乗ってふわっと浮いた。こんな透明感のある日の丸を見たことがないと思った。1994年生まれの彼には、屈託がない。日の丸を翳りのない心で見つめられる未来を彼らの世代なら作れるのだろうかと、眠くなってきた頭でぼんやり考えていた。