[ 2014.07.03 ]憲法・平和
5月15日の安倍首相の記者会見では、7月1日に使われたパネルとともに、このパネルも使われている。長いけれど、冒頭発言をここに紹介する。全文は首相官邸のHPで読むことができる。
「昨年11月、カンボジアの平和のため活動中に命を落とした中田厚仁さん、そして高田晴行警視の慰霊碑に手を合わせました。あの悲しい出来事から20年余りがたち、現在、アジアで、アフリカで、たくさんの若者たちがボランティアなどの形で地域の平和や発展のために活動をしています。この若者のように医療活動に従事をしている人たちもいますし、近くで協力してPKO活動をしている国連のPKO要員もいると思います。
しかし、彼らが突然武装集団に襲われたとしても、この地域やこの国において活動している日本の自衛隊は彼らを救うことができません。一緒に平和構築のために汗を流している、自衛隊とともに汗を流している他国の部隊から救助してもらいたいと連絡を受けても、日本の自衛隊は彼らを見捨てるしかないのです。これが現実なのです。
皆さんが、あるいは皆さんのお子さんやお孫さんたちがその場所にいるかもしれない。その命を守るべき責任を負っている私や日本政府は、本当に何もできないということでいいのでしょうか。内閣総理大臣である私は、いかなる事態にあっても、国民の命を守る責任があるはずです。そして、人々の幸せを願ってつくられた日本国憲法が、こうした事態にあって国民の命を守る責任を放棄せよと言っているとは私にはどうしても考えられません。」
中田さんは、国際連合カンボジア暫定統治機構(UNTAC)がカンボジアで実施予定の総選挙を支援する国際連合ボランティア(UNV)で働いていた。クメール・ルージュとカンボジア政府との衝突が激しい地域を移動中に襲撃された。
高田さんは、UNTACで日本人文民警察官として、オランダ海兵隊UNTAC部隊の護衛を受け、パトロール巡回中に、武装ゲリラに襲撃された。
安倍首相の冒頭の話では、彼らは、自衛隊に課せられた憲法上の制約があったから、助けられなかったという印象を与えるが、これは事実ではない。少なくとも高田さんはオランダ海兵隊の護衛を受けていたのに襲撃されている。武力によって守ることができなかったのが事実である。
「乳児を抱く母親とそれに寄り添う幼児」を使ったパネル説明もそうだが、事実に基づかない事例で、国民の印象を姑息に操作し、論理性のない日本語で、薄っぺらい情感を漂わせて訴える我国の首相。こんな言葉で国民を説得できると思うとは、国民を愚弄している。屈辱を感じるのはそこである。対外的にも恥ずかしい。どれだけ、尊敬を失い、国益を損ねていることか。
次回は民間人として、アフガンで水路建設を通して復興支援を行う中村哲さんのことを書きたい。