集団的自衛権行使容認の閣議決定(その4)|トーチカ通信|桃李舎一級建築事務所

トーチカ通信

[ 2014.07.06 ]憲法・平和

集団的自衛権行使容認の閣議決定(その4)

質問タイムに一人の女性が手を挙げた。「紛争地域で傷ついた人たちに、カウンセリングのような心のケアが必要だと思うが、どうしているのか?」私は心の中で、「カウンセリングって、生きるか死ぬかの状況で、何を言ってるの?」と反応したが、中村哲さんは、穏やかに、「イスラム教徒の彼らには、宗教的ななぐさめがあります」と答えた。神様が私を知っておられるという確信が平穏を与えていて、貧しい人には、失うもののない楽天性があると。

またアフガニスタンは血縁社会なので、困った人はほおっておかない。物乞いをするときは、「貧しい私に施しを・・」とは言ず、「神様が喜ばれます」と言って手を差し出すのだとおっしゃった。これはクリスチャンにはよく理解できる。

澤地さんのインタビューでは、彼らは、中村さんが敬虔なクリスチャンであることを知っていて、不思議なことにそれが信頼関係の源になっていたという。人知を超えた神聖なものや真実に触れる者どうし、妙に世俗化した人より、イスラム教の教えに忠実な人たちとの方がわかり合えるという。

そしてこう続けられた。彼らはイエス・キリストを罵倒しない。しかし欧米側が、ムハマッドを罵倒することはしょっちゅうで、野蛮な国を文明化してやるというような奢りは受け入れがたい。アフガニスタンには20以上の民族がおり、モザイクのような国にあって、人々は共生の知恵をもち、イスラム教で結ばれている。独立心の非常に旺盛な民族で、そこに必要なものは、欧米が導入しようとしている議会制民主主義ではなく「水と食料」だと。

中村さんは、徹底して現地主義の人だ。「現場から遠くなるほど、抽象的になる」が持論。

「誰でも難民や避難民であるよりは、自分で作って食べて、そこで生きたいです。彼らは日本人ほど、高望みがないんですね。いつも言うことですが、ともかく、三度のご飯が食べられること。それと、家族が仲良く故郷(ふるさと)で一緒に生活できること。この2つをかなえてやれば、いろんな問題のほとんどは解決する。それはアフガンに限らず、日本でも同じだと思うんです」(インタビューより)

アフガニスタンの90%農民。水は命綱である。中村さんは現地の人たちと、水路を作る。
主な道具はシャベルやツルハシ。ワイヤーネットの蛇かごに石をつめて、積み上げていく。人力による古代の土木技術である。私はここに、祖父である、若松の沖仲士をまとめた組長玉井金五郎の血を感じる。中村さんは、現場の組長である。現地の人の心をつかむのは、技術力と信仰だけでは足りない。多様な部族をまとめるには、男気と、「そこは、ひとつ、こちらの顔も立てて」という芸当もいる。それが通じる血縁社会である。中村さんの代役は誰もできないだろう。

もし日本政府がこの水路を作ったら、コストは20倍ではきかないという。現地雇用もないだろう。中村さんたちが作った水路は農民自らが汗を流して築いた水路である。そこに、人が続々と帰ってくる。無人の荒野が緑になり、20万人が帰ってきている。