夜のピクニック|トーチカ通信|桃李舎一級建築事務所

トーチカ通信

[ 2015.10.16 ]トーチカのイベント

夜のピクニック

2006年の夏。友人が恩田陸の青春小説「夜のピクニック」を貸してくれた。後日、感想を話すと、「これ、やりませんか?」と言う。OKと返事すると、「そう言うと思った」とにっこりした。

その友人は岡山県立大で先生をしている津田勢太で、岡山に赴任するまでの2009年まで4回、隊長を務め、それを日建設計の岡田健さんが引き継いで今日に至っている。

夜のピクニック(略して夜ピク)は、秋の週末、寝袋を詰めたリュックを担いで、約50kmの道のりをひたすら歩くイベントである。参加者は10名前後。土曜日のお昼にスタートし、ゴールは翌朝の8時頃。途中、深夜の公園や畑で2時間ほど仮眠するが、ほぼ徹夜だ。しんどいし、寒いし、何が楽しいのかと聞かれてもうまく答えられない。でも、歩けばわかる。

夜の匂いの中、ゆるい隊列で後になり先になって歩きながら、横に並んだ人とポツポツと話す。話し相手は自然なタイミングで変わっていく。夜の闇が会話をいつもより少しだけ親密にしてくれる、その感じが好きだ。

深夜の公園で寝袋にもぐって月や星を眺めながめていると、子どもの頃の冒険ごっこのようにワクワクする。もうちょっと起きていたいと思っていても、体は泥のようにまったりと重く、大地に還っていくような感覚で深い眠りに落ちていく。

2006年は淡路島を西から東へ横断した。祭りばやしが遠くで聞こえる田舎道を満月に照らされて歩いた。2007年は新月の闇夜に伊勢街道を歩き、伊勢神宮で朝を迎えた。2008年は大原から比叡山を越えて近江八幡まで。琵琶湖の朝霧が幻想的だった。2009年は生駒から私市まで。高校生も2人いて、参加人数は最多の15人だった。2010年は雨で中止。2011年は丹波から有馬温泉まで、どしゃ降りの中を伊藤立平・岡田健の2人が決行した。2014年は小豆島。学生も参加し、年齢層がぐっと若くなった。

そして2015年。10月3日から4日の朝まで、「どげんか遷都」と称して奈良の東大寺から京都の出町柳まで歩いた。私は諸事情で、夜の10時に合流し、後半25kmを歩いた。岡田隊長の完璧なルートマップとスケジュール管理のおかげで、部分参加ができるのだ。仮眠をとった午前3時の宇治川のグラウンドは、夜露が降りて寝袋の中でも寒くて震えたが、星月夜に不思議なインスピレーションを受けた。歩きながらの会話で大切なことも思い出した。

夜ピクの効用は、歩きながら夜の闇に自分を解放して無になれること。自分の内部を空虚にすると、外部の世界はこんなに美しく、人の営みはなんといとおしいのだろうと思えてくる。そういうときに、考え続けていたことの答えが見つかったりする。

夜ピクには魔力があって、しんどくてもまた歩きたくなってしまう。メンバーはほとんどが建築仲間だけど、誰でも参加できます。来年、ご一緒にいかがですか?