お祝い会のこと(その9 女性のエンジニアによるシンポジウム①)|トーチカ通信|桃李舎一級建築事務所

トーチカ通信

[ 2017.09.05 ]構造デザイン

お祝い会のこと(その9 女性のエンジニアによるシンポジウム①)

開会の挨拶は、発起人を代表して満田衛資さんがして下さった。大人になって初めてつけたという蝶ネクタイ姿が素敵だった。実はこの日、会場に着いて満田さんの蝶ネクタイ姿を見たとたんに、非日常感に包まれて、一気に緊張してしまった。最初の挨拶で、会の性格を上手く伝えてもらえたので、皆さんをスムースにプログラムに誘えたと思う。

シンポジウムの最初の一人5分のプレゼンは、年長者から始める予定だった。時代を切り拓いてきた人たちと、その道に続く若い人たちという登壇のイメージだった。ところが当日の朝、会場で、司会の金尾さんが若手から始めた方がいい気がすると言ってきた。現場での直感は当たるものだ。話を聞いてそうすることにした。

トップバッターの貴田祥子は、桃李舎での仕事の風景と熊本で設計した住宅を紹介し、福島の南相馬でのボランティアの話をした。トーチカで出会った人たちを通して、被災地で社会活動ができたことが貴重な体験になったと話した。

TiS & PARTNERSの田村愛さんは、若いながら事務所を支える管理建築士である。TiSはアトリエ事務所だが人数が多い。若手にも責任ある任務をどんどん与えるというボスの今川憲英さんの期待に応えるべく奮闘している様子がよく伝わった。たとえば、震災のあと南三陸町で設計した幼稚園の紹介では、建築家の要望を実現したいと思う気持ちが強くて、ついがんばり過ぎてしまう。納得できるものが出来て皆さんにも喜んでもらえたが、かけた時間を計算すると経営的には迷惑をかけたかもしれないという反省の弁は、管理建築士としての責任感の表れだ。でも、「最後の責任は今川が取ってくれるから、私はのびのびと明るく仕事をし、事務所のみんなを楽しい気持ちにさせることが役割だと思っています!」と爽やかに笑ってプレゼンを終えた。

桑島由美子は結婚して広島に引っ越すことになり、桃李舎を退職して独立した。誰一人知り合いがない広島で、地元の設計事務所の依頼に真面目に応えているうちに、少しずつ顧客が増えてきた。子どもが生まれても背負いながら仕事を続け、夫の転勤で再び大阪に戻った。二人目が生まれても仕事を続けている現在の様子を、一日のタイムスケジュールで紹介した。保育園への送り迎えで、仕事の時間は細切れになる。それでも持ち前の集中力と要領の良さでたくましく乗り切っていた。子どもたちと過ごす休日は最高の気分転換らしい。ご両親のサポートと夫の協力も彼女の強みだ。仕事については、「得意なことは特にないけど、『これはできません』と言わないエンジニアでありたいです」と締めくくった。

竹中工務店の須賀順子さんは、36才で結婚し、43才で出産したことを公表した。晩婚を勧めたいわけでなく、40才を過ぎても出産したいと思っている人たちを勇気づけるために公表しているという。出産後、1年の育休を経て復職した。夫は同じ会社の設計部。夫婦で子どもの送り迎えを半分ずつ担い、残業も目いっぱいしている。出産後も仕事を続けたかったので、職域を狭めて仕事量を減らす作戦を考えた。ゼネコンでは取り組む人が少ない伝統木造に目をつけて勉強し、「伝統構法が設計できます」と社内で専門宣言をすると、折からの木質建築の風と、女性活躍推進法の風が吹き、今では「伝統」と名がつくものは木造に限らずレンガ造の文化財まで舞い込み、「木造」関連の新工法の開発も任されるようになった。追い風の暴風に背中を押されながら片手に子供ともう一方に構造図を抱えて走っているような忙しさである。でもS.サンドバーグの「アクセルを踏み続けなさい」という言葉に励まされ、「やめるまでやめない」と決めた。子どもと過ごす時間をいかにつくるか、長時間労働との戦いが続いている。

武居由紀子さんは、武設計という女性4人の構造設計事務所を運営している。まずはきれいなオフィスの写真を映し、スタッフが会社に行きたくなるようにリフォームしたと紹介した。大切にしていることは、顔を合わせて話し合うこと。12人座れる白い大きな打ち合わせテーブルでは、ミニプレゼン大会と称して、一人5分程度で抱えているプロジェクトを紹介し、情報を共有する。お弁当もそこで一緒に食べ、弾む会話からアイデアが生まれることもある。紹介した仕事は、かつて勤めていた東畑建築事務所の協力事務所として設計した免震構造の病院。免震の設計で地震波と向き合っていると、地球についてその誕生まで遡って考えるようになった。地球の歴史は人類の歴史より遥かに長い。知った風にならないで謙虚に向き合わなくてはならないと思う。JSCAでは広報委員会に所属している。出前授業では一般の人に構造設計とは何かをわかりやすく伝えている。こういう活動も継続したい。

最後は金箱構造事務所の田村恵子さん。金箱事務所の所員第一号。勤続20数年になる。独身主義ではないが独身。若い頃は事務所に住んでいるような働き方をしていたが、今は規則正しく10時には仕事を終えるようになった。(ここで会場にどっと笑いが起こる)紹介したのは建築家と協働した建築を二つ。どちらも力の流れが明快な構造システム。ディテールを美しく見せたいから、設計の初期段階から施工性を考慮したディテールを考えている。構造計算だけでなく図面も自分で描いているのは、図面を描きながら考えたいから。個々の仕事には誠実に向き合ってきたけれど、自分の将来についてはぼんやりとしか考えてこなかった。キリのいいところでやめようと思っていたが、これだけ続いた。続けることは大切なことだと思う。経験を積んだからできる設計がある。これからも良質な建築をつくることで社会に貢献したい。