『同志少女よ、敵を撃て』|トーチカ通信|桃李舎一級建築事務所|大阪の建築構造設計事務所

トーチカ通信

[ 2022.03.19 ]本・映画・演劇・美術・音楽

『同志少女よ、敵を撃て』

著者:逢坂冬馬 早川書房(2021年)

ウクライナで戦争が始まって3週間が経ったが、停戦交渉は合意に至らない。長引く戦況を見ながら、ロシアに関する映画や本を探していたら、友人がYouTubeの「豊島晋作のテレ東ワールドポリティクス」(2022年2月9日配信)を教えてくれた。

なぜロシアはここまで強硬なのかということを、あえて「ロシアの論理」や「言い分」に立って、ウクライナ危機を読み解くという内容だった。とても考えさせられたので以下に紹介する。

現在のロシアは侵略的国家のイメージがあるが、ロシアからしてみると侵略的だったのは西ヨーロッパ諸国であるというのが言い分だ。歴史を振り返ると、まずフランス。1812年にナポレオンがロシアに侵攻し、モスクワを制圧した。ロシアはモスクワを自ら焼き払って、フランス軍への物資と食料の供給を絶ち、冬を味方にナポレオンを退却させる。これをロシア人は国を防衛した「祖国戦争」-聖戦-として記憶に刻んでいる。

1914年に始まる第一次世界大戦ではドイツ(当時はプロイセン)によってロシア軍が壊滅的打撃を受ける。戦争が長引き、国民生活が貧窮する中、1917年にロシア革命が起る。それが赤軍と白軍による長く悲惨な内戦を招き、1922年にソビエト連邦が誕生する。1930年代にはスターリンによる大粛清が行われ、優秀な幹部を殺害された軍隊は弱体化してゆく。国の弱体化は他国の侵略を招く。それがソ連の決定的なトラウマになったのが、第二次世界大戦である。

1939年、ヒトラー率いるドイツ軍がポーランドに侵攻して第二次世界大戦が勃発する。1941年、ドイツ軍はキエフを占領し、モスクワへ向かって進軍する。それが「独ソ戦争」の始まりである。ソ連の領土で広大な範囲にわたって、空前絶後の戦いが繰り広げられる。第二次世界大戦の主戦場といわれたように、モスクワ攻防戦の死者数は250万人(ソ連が189万人、独が61万人)である。その攻防戦における最大の戦いがスターリングラードだ。地獄と化した市街戦でソ連が勝利し、それが大きな転機となって、連合軍が勝利に導びかれる。

第二次世界大戦での民間人を含む死者数は、正確にはわからないが、ドイツが530万人、日本が約300万人に対して、ソ連が2700万人。ソ連が桁外れに多い。ソ連はこの戦争を、ナポレオンの時代よりさらに激しい聖戦という意味で「大祖国戦争」と呼ぶ。そしてヨーロッパをファシズムから解放したとのは我国だという自負もあるという。

旧ソ連が東欧諸国に行ってきた弾圧などは、一旦、横に置いているが、歴史をたどれば、西側から侵略されたトラウマをもつ国にとって、緩衝地帯となるウクライナがNATOという欧米に組み入れられること、すなわちNATOの東方への拡大を恐れる心情は理解できた。

ロシアのウクライナ侵攻は国際法違反で、許されないことだ。けれども、ものごとは単純なロジックで起こるわけではなく、歴史の中で積み重ねられてきた多くの判断の結果である。現代のモラルやヒューマニズムで下す判断が正しいとは限らない、ということを教えられた。ブログを書く上でも心しておきたいと思う。

番組では、参考図書も丁寧に紹介していた。その1冊である小説『同志少女よ、敵を撃て』を読んだ。

第二次世界大戦の「独ソ戦」を描いた小説で、仮想の物語だが、戦闘や一部の登場人物は事実に基づいている。家族をドイツ兵に虐殺された少女たちが、狙撃兵としての過酷な訓練を受ける中で友情を育み成長し、戦場に放たれる。戦闘場面の描写は臨場感にあふれ、映像的だ。主人公の少女セラフィマが最後に撃った敵は誰だったのか。読者は最後にさらに深い結末に導かれる。

歴史的背景、コサックやカザフ人という登場人物のアイデンティの記述を通して、多面的にロシア人の心の底にあるものを理解する助けになる。訓練で学ぶ射撃に関する数学的・物理的理論も興味深い。ぜひご一読を。