結婚式ができるまで(その14)奏楽|トーチカ通信|桃李舎一級建築事務所|大阪の建築構造設計事務所

トーチカ通信

[ 2020.05.23 ]結婚式ができるまで

結婚式ができるまで(その14)奏楽

結婚式のリハーサル ピアノの前に座るインゲル・ヴァルボさん。中央は平野嘉春牧師。

結婚式の奏楽は友人のノルウェーの宣教師、インゲル・ヴァルボさんが引き受けて下さった。結婚式で重要な奏楽のシーンは賛美歌を除いて3回ある。1.牧師と新郎の入場、2.新婦の入場、3.新郎新婦の退場の3回だ。リクエストはありますかと聞かれてもわからないので、いろいろな曲をピアノで弾いてもらって、一緒に決めさせてもらった。

  1. Trumpet Air by Henry Purcell
  2. Wedding march  by Richard Wagner.
  3. Wedding March from Telemark, arranged by Arvid Aarsnes

 1.はイングランドのバロック。2.は有名なワーグナーの結婚行進曲。3.はフィドルで演奏する曲をピアノやオルガン用にアレンジしたもの。これはノルウェーのテレマークというところで古くから伝わる結婚式の曲で、昔は新郎新婦が馬車で教会に近づくときに屋外で演奏されたのだそうだ。

ピアノの前に座るインゲルさんは母国ノルウェーの正装だった。牧師と新郎の入場は格調高く、バージンロードを歩む花嫁には、友人としての祝福の気持ちをやさしく込めて、式が終わって二人で歩くバージンロードは楽しく軽やかに奏でて下さった。

結婚式でスピーチをするインゲルさん

時は遡って、2001年の5月。家のそばの教会の窓に、英会話教室のポスターを見つけた。訪ねてみると、笑顔で迎えて下さったのがインゲルさんだった。レッスンは土曜日の夕方の1時間で、そのうちの10分は、聖書を学ぶバイブルタイムがついていた。聖書の学びは楽しいですと感想を話すと、インゲルさんは、「日曜日の朝の1時間、私の部屋で英語の聖書を一緒に読みませんか」と誘われた。

翌朝おじゃますると、帰り際に、「よかったら礼拝に参加しませんか?」と誘われた。導かれるように、そのまま一緒に出席した。同じような週末を重ねて、1年半後、私は洗礼を受けてクリスチャンになった。

同世代の私たちはすぐに友達になった。ノルウェーに一時帰国されるまでの3年間、毎週、日曜日は夜の礼拝のあと、一緒に近所を散歩して、その後、インゲルさんの部屋で紅茶を飲みながら過ごした。教会はマンションの1階にあって、その10階にインゲルさんの部屋があった。一歩入ると、そこは北欧だった。落ち着いたろうそくの光の中、居心地のいいソファーに座って、ノルウェーの山羊のチーズやお手製のワッフルを食べながら、私たちは夜遅くまで喋った。

私はインゲルさんを通して、信仰に支えられた暮らしを知った。つつましく穏やかな暮し。食事は必要な分だけ作って残さない。感謝して丁寧に食べるので、高級な食材を使わなくてもおいしい。そこに会話があれば、内面的に満たされるのでさらにおいしい。お金は少しの楽しみと生活を支えるために使われ、献金を惜しまれなかった。神に仕える者であっても、もちろん人間だから迷いや悩みもある。でもインゲルさんには、立ち返ることができる聖書があった。信仰が心を自由に開放し、平安と豊かさをもたらすことを、目の当たりにし、そういう信仰生活にあこがれた。教会のみなさんの祈りもあり、洗礼は自然な流れだった。

インゲルさんの部屋で私たちはよく一緒に祈った。「主のみ心ならば、私たちに、ふさわしいパートナーを与えてください」そんな祈りを何度一緒にしたことだろう。インゲルさんのピアノは祈りをかなえて下さった神様への賛美でもあった。