トーチカができるまでのこと (その1)|トーチカ通信|桃李舎一級建築事務所|大阪の建築構造設計事務所

トーチカ通信

[ 2012.02.08 ]トーチカができるまでのこと

トーチカができるまでのこと (その1)

人にも本にも、出会いというものがある。
青木仁の『日本型まちづくりへの転換』 この本との出会いがなければトーチカは作っていない。

経済の拡大志向から脱却し、下降シナリオを描くとき、環境問題やエネルギー問題をはじめとする様々な課題の解決の鍵は「コンパクトさ」にあるというのがこの本の主張である。

著者は東京の街を歩く。道路整備が生み出した街路空間の魅力の乏しさを嘆き、車依存からの脱却を訴える。車を手放せないなら、コンパクトカーに乗り替え、余ったスペースに緑を植えようと提案する。鉢植えが並ぶ細路地や、沿道の宅地から枝を伸ばす樹木が作る緑陰を愛で、住民一人ひとりの小さな緑化努力を称える。

コンパクトで持続性のあるまちづくりの手法はラジカルである。その理論に心を動かされた。特別だったのは、著者が語る口調である。読み手の良識に訴えて、行動を呼びかける。「個々の建築主の投資の総和が最大のまちづくりのスポンサーである」のだから、あなたができることから始めようと語りかけるのだ。

たとえば下北沢の木賃アパートの1階が小さな店舗にコンバートされた事例では、「このような小さな建築投資の試みがゆっくりと集積し、下北沢の魅力を維持し進化させている」と言い、「小さな単位での、独立した投資の決断と実行の連続的な生起のメカニズム」が個性的な街をつくり、「21世紀のまちづくりとは、一人ひとりが今いる場所を、一人ひとりが責任をもって守り育てていくことである」と締めくくる。

本の中に、夜になるとシャッターが下りて真っ暗になる街並みの写真があった。我が家の1階はガレージで、正面にはシャッターがついていた。右隣の家は夜になると玄関にシャッターが下りる。左隣の家は車が2台並列駐車できるガレージで、間口の広いシャッターが下りている。向かいの家も同様なシャッター付きガレージだ。あらためて見直すと、殺風景なシャッターだらけだ。一旦気づくと、シャッターを見るたびに気になるようになった。

本を読んだのは2007年の夏である。