海よりも長い夜|トーチカ通信|桃李舎一級建築事務所|大阪の建築構造設計事務所

トーチカ通信

[ 2012.02.26 ]本・映画・演劇・美術・音楽

海よりも長い夜

吹田のメイシアターに芝居を見に行った。『海よりも長い夜』は平田オリザの代表作で初演は1999年である。

廃寮が決まった女子寮で行われる、ある集団の集会を舞台にした90分の会話劇。舞台のセットは中央の大きな机ひとつ。そこに思い思いに人が集まってくる。寮生、卒業生のOL、サラリーマン、元教師、苔の研究者。会話から、女子寮の跡地が米軍基地になること、その反対運動が裏山の自然保護を訴える市民運動に発展していることがわかってくる。会話はぎくしゃくとし、集団は崩壊寸前である。ちらしに書かれた芝居のテーマは「集団と個」。

平田オリザは、現在、大阪大学コミュニケーションデザインセンターの教授で、この芝居の監修を行っている。出演者は、公募によって選ばれた一般市民と阪大の学生。これは社学連携の新しい形の芸術活動である。

この芝居には友人で建築家の上野美子さんが出演している。上野さんは苔の研究者の役どころ。あまりにもぴたりとはまっているので、おかしくてしょうがない。つい彼女ばかり見てしまう。

上野さんは地下発電所にも参加してくれている。今日は昨夜の地下発電所の発表者である伊藤さんと萩森さんも一緒に見に行った。芝居の中のセリフが、昨夜の会話と重なる。たとえば、市民との対話の積み重ねの延長で答えを導くのか、そこを突き抜けたところでビジョンを描き、こちらで理想の環境を用意するのかという話である。芝居の中では、後者の考え方は古いと言っていた。

夜、電話で上野さんと喋った。稽古は昨年10月から始めたという。世代もバックボーンも違う人たちとの共同作業は結構大変だったようだ。それこそが平田オリザの狙いで、市民社会の抱える課題を、演劇行為と、その作品そのものから同時に考える機会になっているのである。言い換えれば、ロールプレイによって、集団での活動の疑似体験をしていることになる。「素人集団なので、公演直前までバラバラだったけど、最後はそのまま結晶して芝居になった」と言っていた。

この上野さんとの話は、公園の議論と通じている。人は一人ひとり、性格も考え方も、持っている文化も違う。雑多なまま受け入れられる快適な公園に必要なデザインは何なのだろう。また考えている。