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トーチカ通信

[ 2012.02.26 ]地下発電所

issue+design プロジェクト

第18回 地下発電所集会室の報告

ゲスト : 伊藤立平・萩森薫・岡田健
テーマ : 『まちの広場をつくる』 - 震災復興+design コンペティション参加作品

このコンペは、社会の課題(ISSUE)を市民の創造力(DESIGN)で解決することに挑戦する市民参加型のソーシャルデザインプロジェクトである。

このチームは放射能被害を受けた町で何がデザインできるかに挑戦した。昨夜は2次審査での最終提案を丁寧に説明してもらった。

人々の安心を取り戻し、町を再建するための最重要課題は「除染」である。彼らは事前に勉強会を重ねた上で福島に向かい、放射線測定器をツタヤでレンタルし、南相馬市を測定しながら住民との対話を重ねる。

役所で手に入れた汚染マップは1kmグリッドで線量が色分けされているが、生活とかけ離れたスケールで役に立たない。そこで彼らが提案したのは暮らしに直結する「除染」の「見える化」である。除染して変化していく放射能のレベルを、住民が主体的に測定して、そのポイントにマーキングし、みんなで除染情報を共有するしくみとアイテムをデザインした。

たとえば、線量を0.125、0.25、0.5マイクロシーベルトという段階ごとに色分けしたステッカーを町のあちこちにペタペタと貼る。花壇や植え込みにプラカードのような線量タグを突き刺す。道路標識のような大きな表示で、除染の進捗をカウントダウンする。アイテムのデザインはわかりやすいということ以上に、美しいことが重要だ。線量の低いきれいな色のステッカーが町のあちこちに増え、安全スポットが広がるイメージは楽しく、気持ちが前に向く。

彼らは提案の一方でこのようなことも話した。役所の「安全」という言葉を信じて、街に残った、あるいは戻った人々は、ある程度の放射能とは共存する覚悟ができている。3人が線量を測定する姿に、線量の数値には目や耳を塞いで割り切って暮らしたいと思う人々が向ける目は冷ややかだったという。これも現実だ。

そして注目したのは「公園」である。公園は除染が済んでいるが、人気(ひとけ)がなく閑散としている。町の中の公園は人々の家から徒歩5分圏内に点在している。誰もがアクセスしやすい公園を少しだけリフォームし、町のひろばとして機能させるデザインを提案した。そこでもビジュアル的に洗練されたアイコンが活躍する。その公園に備わる機能や収集できる情報を、アイコンで示す標識は、子供、年寄り、外国人にもわかりやすい。美しい視覚言語の運用はデザイナーの仕事である。

公園の「今ある」遊具をまちの家具にする試みは、クリスマスに大阪の公園で実践している。子供たちとのワークショップの様子はリアリティがある。しかし、彼らが建築家として公園にもたせようとしている本当の役割はもっと深く、このプレゼンには表現しきれていない。画期的なのだが、まだ概念的で言語化されていないというのが私の感想である。延々と深夜1時まで「公園」について話し込んだ。これは続けて考えたいテーマだ。最終審査の発表はもうそろそろ。当選を願っている。