名曲喫茶 柳月堂|トーチカ通信|桃李舎一級建築事務所

トーチカ通信

[ 2012.03.29 ]未分類

名曲喫茶 柳月堂

昨日は早朝から京都で仕事だった。仕事を終えて出町柳から大阪に戻る前に、一息着きたかった。同行していたスタッフの貴田が知らないというので、久しぶりに、駅前の柳月堂という名曲喫茶に入った。

昭和29年に創業の喫茶室は2階にある。細くて暗い階段を上がるにつれて、俗世間が一段、一段と遠ざかっていく。重いガラスの入った木の扉を開けると、もうそこは別世界。静かにシューベルトが流れていた。中で脱ぐと音を立てるので、小さな前室で上着を脱いで腕にかけ、そっと音楽室の扉を押して中に入る。

照明が暗いジャズ喫茶と違い、室内は昼下がりのやわらかい自然光に満ちている。ゆったりした二人がけのソファーが、正面の大きなスピーカーに向かって並んでいる。正面にはピアノが一台。その向こうにベートーベンのデスマスク。ここは音楽を楽しむところなので、会話は許されていない。話したい人には、前室の横にバーカウンターが用意されている。

先客は2人だった。二人がけのソファーに一人で首を預けて、沈み込むが、なかなか仕事の頭が切り替わらない。それでも目を閉じていると、弦楽器の優雅な調べがとんがっていた神経をゆっくりと溶かしてくれる。レコードのチリチリという音が、どんどん遠い記憶を呼び起こす。ピンポイントで戻る時代がある。19才。浪人していた70年代の終り。男の子と並んで座って、岩波文庫のカントを読んでいた。思い出すとギャッと寒くなる。でもあの時代の名曲喫茶のそんな記憶って誰でもあるはずだ。

リクエストノートが後ろのテーブルに広げてある。横にレコードのリストファイルが並んでいて好きな曲を探すことができる。次の曲が書かれていなかったので、リクエストする。ショパンのバラード第1番。演奏はルービンシュタイン。

外に出ると、貴田が「なんか、風景がいつもとちがって見えます」と言った。私もまだピアノの余韻にひたっていたけど、京阪の特急に乗るとあっという間に消えた。

もしご存知なければ一度行ってください。テーブルチャージは500円。でも次に行くときにレシートを持っていくと、払わなくていい。そんなシステムです。