野生のささやき  Whisper of the Wild|トーチカ通信|桃李舎一級建築事務所|大阪の建築構造設計事務所

トーチカ通信

[ 2012.04.15 ]未分類

野生のささやき  Whisper of the Wild

この週末、仕事で北海道の女満別(めまんべつ)に行っていた。ホテルに到着したのは夜だったのでわからなかったが、今朝、朝食をとった食堂の窓に、見たこともない風景が広がっていた。真っ白に凍った湖である。これは網走湖だ。

食事を早々に済ませ、湖畔に出た。こんなに広い湖なのに、誰もいない。湖は岸に近いところは少し氷が溶けて、透明な氷の下に湖底の砂が透けて見える。大地から湧き出る水、水の底に沈んだ枯れ木、冷たい吐息、湿原。タルコフスキーの世界だ。そうだ、この海の向こうはロシアだった。

静かだ。

白く凍った湖は静かだ。耳をじっとすますと感覚が遠くまで広がっていく。遠くでハンターの銃の音が響いた。静寂が戻ると、それはさらに深まっている。遠くで鳥が鳴いた。白鳥が羽を広げてゆったりと飛んでいく。ここしばらく、一人になりたいと思っていたところだった。 大きな自然に包まれ自分が風景の一部になっていく。

大阪に戻って食卓で朝日新聞の日曜版のGLOBEを広げると、ニューヨークタイムズの記事が紹介されていた。タイトルは『野生のささやき』 アラスカのデナリ国立公園で、自然の音を録音するプロジェクトの話である。さわることも、みることもできず、しかも失われつつある自然が生み出す音の収集と保存の話だ。以下に抜粋する。

“デナリの冬は、静けさと孤独に包まれる。究極の静けさをとらえた時、人は何を感じるのだろうか。「開放感」だ。・・・。静かになればなるほど、遠いところから伝わってくる、自然の響きはよりはっきりと聞こえるようになる。突然、この広い世界と自分の感覚がつながっているんだ、と感じる。・・・。帰途につき、心の中で、さっきまでいた尾根が、闇に包まれているのを思い描いた。私には尾根が隔てる谷の広さが「聞こえた」気がした。”

http://www.nytimes.com/2012/03/18/magazine/is-silence-going-extinct.htmlこのサイトを開くと、アラスカの野鳥の声や、吹きすさぶ風の音、動物の声が聴けます。すごくいいので、聴いてみてください。一気に極寒のアラスカにワープします。