トーチカができるまでのこと (その21)|トーチカ通信|桃李舎一級建築事務所|大阪の建築構造設計事務所

トーチカ通信

[ 2012.04.22 ]トーチカができるまでのこと

トーチカができるまでのこと (その21)

工事中、大工さんにお茶を運んでは一緒に座って、道を歩く人を眺めた。モータープールの着工に踏み切れたのは、j.Podがシステム建築だからである。もしも運営に失敗しても、ボルトをはずして解体し、移築すればいいし、欲しい人に中古で売ることもできる。このj.Podのリカレント性が投資のリスクに対する気持ちの負担を減らしてくれていた。

それと東北の大震災である。既成の市街地の隙間に、こういう形で新たな場所を創出する試みは、今だから意味があると思えた。

原発に依存しない社会の実現のために、すぐにできることは節電であり、たとえ再生可能な資源でありエネルギーであっても、多くを消費しない生活をすることである。そのためには家は小さい方がいい。小さな家は建設や解体時に必要なエネルギーも、生活で消費するエネルギーも小さい。小さな空間はそこで暮らす人の欲望もコンパクト化する。家が小さければ、人は外に出る。街や公園を歩き、図書館で本を読み、人とのコミュニケーションが増える。小さいことはいいことばかりだ。

モータープールのj.Podは在宅勤務用の戸建てオフィスのモデルになる。原発から脱却する社会の実現は人間の欲望も含めて、すべてをコンパクトにすること。j.Podは人々を価値の転換に誘う。そういうプロダクトを世の中に広めていこう・・そんなことを考えていた。

去年の春は、今後社会が大きく変わって、構造設計者が必要な大きなプロジェクトは減り、これまでと同じような事務所の運営はできなくなるかもしれないと思っていた。それはそれでいい。既存建物の耐震化は必要だから、その分野で専門の職能は生かせる。

物販も考えた。友人に相談すると、「物販でもなんでも自分たちができることなら何でもするっていうのが新しい形かも知れないよ。専門分化・分業っていう考え方が、人と人の横の繋がりを断ち切ってきたのかも知れないから。自分たちがやらなくても誰かがやってくれるだろうって考えると、その時点で他者や社会の必要事を放置することになるってことかな」というメールの返信が来た。

震災直後は友人とこういう話をよくした。このプロジェクトの間に考えたことは、今も何かを判断するときの基準になっている。