[ 2012.05.18 ]トーチカのイベント
トーチカにダンボール箱に詰められた民芸品が運ばれてきたのは5月の連休初日だった。
夜、一つ一つ、新聞紙でくるまれた包みから取り出してはテーブルに並べた。陶器の壷、徳利、片口。どれにも小さなシールが貼られていて、平田さんが書かれた産地の文字がある。丹波、砥部、小鹿田、益子、沖縄、韓国、印度、ポルトガル・・。
・・・いいな・・・この壷・・・小鹿田・・・何て読むんだろ・・・。ちょっと眺めて、また次。・・・
?・・軽いと思ったら、張子のフクロウだ・・今度は・・こけし人形か・・遠刈田、鳴子、南部・・・どれも同じかと思ったら、そうか、地域によって顔も髪型も胴体の模様もちがうんだ・・知らなかった・・。
何が出てくるかわからない、びっくり箱をあけるような面白さに、しんしんと夜が更けてもやめられなかった。トーチカの床がくしゃくしゃの新聞で埋まり、テーブルや椅子の上に250点の陶器や人形が並んだ。どれも年代ものである。
夜になるとトーチカに誘われるように行ってしまう。ドアを開けて灯りをつけると、太古の眠りから覚めたように、パッと250点の器や人形が浮かびあがる。眺めるうちに、静かに夜が更けていく。床に置いた大きな壷に、足があたって、コツンと音がすると、天井からぶら下がっていた、西洋アンティークの操り人形のオルゴールが鳴り、美しいドレスを着た貴婦人が長い手足を動かして踊る。センサーが反応しているとわかっていても、ドキッとする。ひんやりとしてきて、くしゃみをすると、また同じメロディが流れ、振り向くと貴婦人が踊っている。音が止むと、時空が少しひずんで、外の闇が濃くなる。ここに長く留まってはいけない気がして、灯りを消して部屋を出た。
連休が明けて、仕事が始まっても、トーチカが気になる。私たちは平田さんにお願いして、気に入ったものに「売約済み」のシールを貼らせてもらうことにしていた。夕方になって、
「トーチカ、行く?」と聞くと、スタッフの貴田と、産休の田村に代わって来てくれている濱田さんが、「行きます」と言ってついてくる。
気に入ったものを探すつもりでじっくり見ていると、あっという間に1時間が経っている。濱田さんが、「毎晩見てると、最初はいいと思わなかったものでも、そのよさがわかってきました」と言う。全くそうなのだ。両親も降りてきては眺めている。毎晩こんな風に過ごした。
いつのまにか私たちは250点がすべて頭に入っていた。これは誰に貰われていくのだろうと、お嫁に出す親の気持ちで仲良く並ぶこけし人形を見ていた。
そして民芸展の初日を迎えた。次回に続く。