[ 2019.11.08 ]結婚式ができるまで
結婚のビジョンもないのに、ウェディングベールだけがあるという、奇妙な状態は今年の1月まで続いた。今から思えば、岩田と貴田は頼まれもしないのに、よくあんなことをしたものだ。「青木さん、所長をなんとかしてください!」という、なかば脅迫である。
せっかくもらったのだから、使いたいけど、使う=結婚なので、簡単な話ではない。ベールは当面、塩漬けになった。というのも、もらった直後にコンペの2次審査を控えていたので、そちらに没頭してしまい、それがまた勝ったものだから、2018年はその設計で忙しかったということもある。でも、ウェディングベールの存在感は、二人の間でゆっくりと大きくなっていった。
転機は突然、訪れた。今年の1月17日、京都で地鎮祭があった。なごやかな直会いの中で、急にローリングストーンズの「Start Me Up」が流れてきた。続いてマイクで名前を呼ばれて「前に来てください」という。挨拶をしろってことかなと思っていたら、大きなプレゼントを渡された。それは還暦祝いのサプライズだったのである。
大所帯のプロジェクトなので、今年還暦を迎えるのは私を含め5人だった。このサプライズパーティは「プロジェクトR(Red)」と名付けられて、周到に準備されていたらしい。寄せ書きの色紙と赤いマフラーをもらった。色紙の真ん中には私の似顔絵があり、そのまわりはチームの仲間からのメッセージで埋め尽くされていた。上の写真で手にしているのは、「伊根満開」という古代米を使ったピンク色のお酒だ。そのときに書いた、お礼のメールを下に抜粋する。
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「赤」は私のクローゼットに無い色ですが、ふわっと首に巻いてみると、意外といけるかも?と思いました。そしてなんだか少し強くなった気がしました。風水では「赤」は「生命力」です。みなさんの気持ちがたっぷりこめられたRedですから、きっと私を芯から元気にしてくれるはずです。
「Start me up」はストーンズのライブでは、よく1曲目に使われます。ミック・ジャガーが「If you start me up. I’ll never stop」とシャウトすると、テンションが上がります。この曲をもらったことにもきっと意味があると思うのです。「私をその気にさせたら行くわよ。止められないわよ!」でしょ?皆さんにギアを変えてもらったと感じています。私はホントに本当に、元気づけられました。ストーンズで還暦をお祝いしてもらえるなんて最高です。これをきっかけに、自分が少し変わるような気さえしています。
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大げさではなく、ほんとうの気持ちだった。新しい人生の扉が開かれ、わくわくするような楽しい気分。人生の節目で、こういうセレモニーは必要なんだなと思えた。その夜、彼に電話をしたら自然に言葉がこぼれた。
「教会の十字架の前で、結婚の誓いをしたいです」
彼は静かに言った。「じゃぁ、そうしよう」