[ 2012.04.27 ]トーチカができるまでのこと
モータープールの工事が完成に近づいていた頃、NKSアーキテクツの末廣香織さんから電話があった。仙台の仮設住宅の中に小さな木造の集会所をつくろうとしているのだが、構造設計者としてボランティアで協力してもらえないかという相談だった。
NKSアーキテクツは末廣宣子さんと香織さんが主宰する建築設計事務所で福岡にある。 1999年に出会って以来、ずーっと、建築の設計をいっしょにさせてもらっている。自分の専門の知識を生かして、東北に貢献できることほど嬉しいことはない。
それは建築家の伊東豊雄さんが提案した「みんなの家」だった。熊本県がくまもとアートポリスの事業として参画し、仙台市と協働して実施したプロジェクである。設計は伊東事務所とアートポリスの桂英昭氏、曽我部昌史氏、そして末廣さん。多くの協力者とともに全員参加のメールのやりとりで8月に実施設計を完了、10月26日に竣工した。写真は竣工式に仮設住宅のみなさんが開催して下さった「芋煮会」の様子である。
この小さな家の建設を通して、建築のあるべき姿を考える貴重な体験をした。 ちょうどこのトーチカプロジェクトと重なったので、東北に向かう車中やホテルで色々なことを考えた。それはまたあらためて別の機会に書きたいが、ここでは伊東さんが「新建築」の12月号で書かれていた文章の最後の部分を紹介したい。
『<みんなの家>は仮設住宅地の中にだけある必要もないし、新築である必要もない。商店街の半壊したビルの1階を囲い込んだだけでも成立するし、瓦礫の中の掘っ立て小屋でも成立する。要は震災した人びとが集まって自分たちの将来を語り合う場がいま求められている。そうした場を各地に用意することによって、住民を中心に据えたまちづくりの第一歩が始まると信じたい。』
そう、このトーチカはこの街の<みんなの家>なのだ。誰かが「今日からここはみんなの家になりました」と宣言すれば、そこはその日から、みんなが思い思いに集まって、一緒にごはんを食べ、語らえる場所になる。こんなことなら私もやれるかな、と思ってもらえる人が現れることを願ってこの小さな連載を書いてきた。この地上の様々な場所に、みんなの家がひそやかに生まれる情景を思い描いている。次回が最終回。