トーチカができるまでのこと (最終回)|トーチカ通信|桃李舎一級建築事務所|大阪の建築構造設計事務所

トーチカ通信

[ 2012.04.29 ]トーチカができるまでのこと

トーチカができるまでのこと (最終回)

ある日、大阪の空堀(からほり)という町で「空堀ことば塾」を主催する塙狼星さんから、モータープールを子供落語の発表会に使わせてもらえないかと相談があった。塙さんはルドルフ・シュタイナーの思想を学びながら、ひとりひとりの心を育てる社会実践としての教育に取り組んでおられる。落語は「言語造形」の実践の一つらしい。

案内のちらしを町内の一軒一軒の郵便受けに入れ、ポスターを近くのスーパーに貼ると、小雨の中、たくさんの人が集まって下さった。2部構成で1部の子供落語はモータープール、2部の大人の落語はトーチカ。途中、ティータイムも設けた。

j.Podの舞台効果は想像以上だった。j.Podをトラックに乗せて巡業の旅に出たくなる。
海辺や原っぱに置くと、どんな風景を切り取ってみせてくれるだろう。

大きな布に描いた子供たちの絵に力があり、布を垂らすと、一気に非日常の空間が立ち上がる。子供の笑顔に木の柔らかい空間がよく似合う。朝の準備の間、子供たちはトーチカに入るなり、絵本を見つけて本棚に駆け寄った。読んでもいい?と聞くので、いいよというと、『かえるのエルタ』と『いやいやえん』が取り合いになる。今もいっしょなんだ・・私も大好きだった。そうか、j.Podを子供図書室にするのもいいなと思った。

町内のみなさんも喜んでくださった。今度はここで町内の演芸会を開こうかと話した。昔の写真をスキャンして、壁に大きく写して上映会をする企画も準備している。戦時中のバケツリレーの8mmフィルムを提供できるという人も現れた。

こんな風に、二つの場は人々の中で育っていくのだろう。工事をしながら仕事をこなした3ヶ月は本当にしんどかった。毎日数時間しか眠れなかった。もう2度と繰り返したくないと思ったが、今振り返れば既に懐かしい思い出になっている。

トーチカとモータープールはいろいろな人の想いを受け止めて作った。2011年のあの春から夏をこんな風に過ごして作ったことを報告したくて連載にした。これは私なりの震災対応である。今このときも復興のために努力している人々に思いを寄せながら、この小さな連載を終える。本番はこれからだ。明日からは今日のことを書いていこう。