[ 2012.07.17 ]原発・福島・東北
大飯原発の再稼動が決まってから、各地でデモが活発になっている。今日はその一大結節点となる大規模集会が代々木公園で行われた。同じ町内の大正生まれの佐藤ふみ子さんと二人で参加した。原宿駅から代々木公園の会場に入るまでの間に、全国から集まってきた団体から、手渡されるちらしや機関紙がみるみる束になっていく。メイン会場は木陰がない33℃の炎天下。麦わら帽子とスカーフで日射病対策はしてきたものの、飲んでも飲んでも水がすぐに汗に変わる。
速報で、今日の参加者は17万人を突破というアナウンスが流れた。集まってきた人たちは、私より少し上の世代が圧倒的に多かったが、若い子連れの家族もちらほら見える。一目で市民運動家に見える人もいるが、大半は普通の人々である。夫婦で来られて、静かに座っておられる。脱原発運動を集団ヒステリーと呼んだ政治家がいたが全く違う。浮かれたお祭り騒ぎの雰囲気もない。意思表示のためにとにかく来たという人がほとんどと思う。
しかしただ一緒にいるというだけで生まれるこの一体感を何と表現すればいいのだろう。
呼びかけ人がステージに勢ぞろいした。鎌田慧が今日の趣旨を述べ、2番手の坂本龍一は「これだけの人が声をあげているのを見て感無量」、「福島のあとで沈黙しているのは野蛮だ」と言った。内橋克人は「主権者である国民の必死の願いをあざ笑うように大飯原発はフル稼働している。野田首相は福井県知事に最高の賛辞を送って再稼動を宣言した。対案なしで反対できないと言うのは、官僚が国民を脅す常套手段」と批判した。署名を官邸に届けた大江健三郎は「645万人分の署名が無視された。我々は侮辱と原発の恐怖の中で生きている」と怒りで震える声で語った。
「みなさん、こんにちは。後ろの人、聞こえますかぁ!」とさわやかな笑顔で呼びかけたのは落合恵子。前の4人の男性の声が低かったぶん、落合さんのよく通る声が際立ち、会場が一気に盛り上がった。「私達は共犯者になりたくありません。自らの存在にかけて戦うことをやめないと約束します」と手をふりあげた。澤地久枝は原発は核であると言い切り、日本は率先して核の無条件撤廃をめざすべきで、「経済大国を降りて、小さな国になったとして、何を恥じることがありますか」と凛とした声で語りかけた。90歳の瀬戸内寂聴さんは、まずこれまでの歴史の中で戦ってきた人たちを称えた後、「自分以外の人のために生きることができるのが人間」「長い運動の間にはむなしいと思うときもあるでしょうが、あきらめないでがんばりましょう」と言葉に力をこめて訴えた。
午後2時からデモ行進がスタートした。私達は原宿→表参道→青山通り→外苑西通り→明治公園のコースに参加した。ゴールまでの3時間、沿道に並ぶ人が手を振ってくれる。歩道橋の上やバスの中からも身を乗り出して手を振ってくれる人がいる。嬉しいから私たちも笑顔で手を振る。街全体に一体感が生まれ、それを肌で感じた瞬間に暖かくて優しい気持ちがこみあげた。
代表制民主主義においてこそ、デモのような直接行動は大切であると痛感した。現に選挙で選ばれた代表者が、投票で支持した人々を裏切り続けているのだから。デモなんて、前時代的と思われるかもしれない。しかし、インターネットが発達し、ネット上で人々がいくら連携できるようになったといえ、個人の顔が見える行動やコミュニケーションはリアルな責任が伴う。責任が伴うからひとりひとりが主権者になりうる。言葉がなくても、ただそこに一緒にいるというだけで共有できる思いと感動がある。運動の成功の鍵は、運動を支える思想の確かさよりも、その思想を共有する人々の間に生まれる連帯感を実感できることではないかと思った。