[ 2012.11.03 ]未分類
2006年のノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏の講演会と懇親会に出席した。 UBS150周年記念特別講演である。招待を受けた友人が、「一緒に行かない?」と誘ってくれ、「行く!」と勇んで行ったものの、ヒルトンホテルの会場の入り口からすでに漂っている、ものすごくセレブな雰囲気にたじろいでしまった。UBSがスイスを拠点とする銀行だということも、友人が社長夫人であり、参加できないご主人の代わりに誘ってくれたことも、そこで知った。
セレブな人々のお話はさておき、ユヌス氏の講演。ユヌス氏はアメリカの大学で経済を学んで、1972年にバングラデシュに帰国した。勤務する大学を一歩出ると、そこには貧困と飢餓があふれていた。貧しい人には銀行がお金を貸さないから、彼らは高利貸しからお金を借りる。一度借りると、返済のために働くことになり、貧困のループから抜け出せない。
高利貸しが借り手の人生を束縛することに義憤を抱いたユヌス氏は、内職のための材料を買えない女性に、自分のお金を貸した。担保もとらず、期限も決めないで。するとそのお金で彼女は内職をし、借りた分を返済した。同じように、彼はたくさんの女性に小額のお金を貸し続けた。彼女たちは鶏を飼い、手工芸に投資し、お金を稼げるようになった。それがグラミン銀行の創設につながる。現在、バングラデシュでは830万人が借り入れをしているが、そのうち女性が97%だそうだ。
グラミン銀行の融資は、担保も、法的な契約書もなし。信頼によって行われる。それでも、返済率は98%という高さだ。当初、融資の額は5ドルだった。このような無担保小額融資=マイクロクレジットの提供が、貧困層に自立の道を開いたとして、ノーベル賞が授与された。
融資のシステムをもう少し紹介する。
①借り手は5人でグループを作り、グループごとに融資を受ける。
②貸出金利は年20%程度(単利)。高いように思うが、高利貸しは100%~200%
③常に銀行の職員が融資先まで出向く。職員は、融資先の家族構成や家族の名前も知っている。
地域に密着し、人々の信頼関係の上に成り立つ融資システムという新しいビジネスモデルを産み出したことが重要なポイントである。
ユヌス氏はセレブな参加者に、慈善事業や寄付ではなく、ソーシャル・ビジネスへの投資を促した。ソーシャル・ビジネスは、貧困・教育・健康・環境などの問題を解決するためのビジネスである。投資家は投資額を回収する。しかし、それを上回る配当は還元されない。投資の元本の回収以降に生じた利益は、そのビジネスが自立して、持続し、よりよく展開するために使われる。従来のビジネスのように、利益の最大化が目的ではない。
ユヌス氏が提唱するソーシャル・ビジネスは従来のビジネスと慈善事業の中間にあると考えればわかりやすい。
11月1日の朝日新聞に、インタビュー記事が出ていた。ユヌス氏は日本で今月中に社会事業を手がける基金を立ち上げることを明らかにした。既に、東北では、国や自治体の補助金をあてにせず、民間の投資による、小さなビジネスモデルが芽生え始めている。震災直後、誰もが居ても立ってもいられない気持ちで、募金をしたはずだが、どう使われたのかわからない。あの時の気持ちを持ち続けて、募金している人が今、どれだけいるだろう。募金は一過性のものだ。循環するお金の使い方を考える機会になった。