今井書店の本棚(その1)|トーチカ通信|桃李舎一級建築事務所

トーチカ通信

[ 2015.08.14 ]構造デザイン

今井書店の本棚(その1)

今井書店をご存知だろうか。鳥取県の米子に拠点を置く老舗の書店グループである。その一店舗の「本の学校 今井ブックセンター」のリニューアルにあたって、大きな本棚の構造設計を任された。

リニューアルのプロジェクトマネージャーは大村紋子さんである。今井書店から、店舗の「へそ」になるような場所を作りたいという相談を受けて、1年前から書店員の皆さんとブレインストーミングを重ねてきた。大村さんはデザイナーに建築家の伊藤立平さんを引っぱってきた。

人が自然に集まる広場のようなものがあればどうだろう、たとえば中心に泉があるような広場は?ということで、コンセプトは「本の泉」となり、伊藤さんは模型を作っては米子に運んでプレゼンを繰り返した。そして生まれたのが書店のシンボルになる大きな本棚のアイデアである。

ある日、大村さんと伊藤さんが本棚の図面を持って桃李舎にやって来た。二人は建築の仕事仲間で友人でもある。

本棚はぐるりと丸く、中に入ると360度本に囲まれる。趣向を凝らして並べられた本からさまざまな物語があふれ出す「言葉の泉」である。上部は円環状に連続するが、下部は4つの島に分かれていて、中に人を停留させつつ 、四方に流れる動線が考えられている。視線が抜けるように、背板に相当するものがない。水平の板が束板だけで支えられていて、本が表紙を表にして、面陳(めんちん)というスタイルで並べられる。「どうでしょう?」とアドバイスを求められた。

通常、家具は少々大きくても職人さんが勘に頼って作っている。でも広げられたスケッチは不安定でいかにも危なかった。1段に積む本の量、棚板の厚みのイメージを伊藤さんに聞きながら、3人で話すうちに、いつの間にかいつものように構造計画をし始めていて、夢中になっていた。柱になる束板を透明なアクリルにすれば綺麗ですよね・・ということになり、急遽、アクリルを研究し、設計することになった。たった1ヶ月で。

3枚の写真はカメラマンの山田圭司郎さんの撮影。