[ 2016.10.02 ]原発・福島・東北
この週末は、木曜の夜から福島の友人のアパートで過ごした。友人はほとんどの家具や収納用の小物をダンボール箱やペットボトルで作っている。物を減らしてシンプルに暮らしているので、引越しのときにはそれらを資源ごみに出すと、大きなスーツケース1つと、宅配で送れるダンボール箱2、3箱で引越しができるそうだ。
金曜日は友人の部屋で一人で仕事をしていた。机も椅子もテーブルも全部ダンボール製。軽いので好きな場所に移動できてとても便利。ベランダの前でパソコンに向かっていると、開け放した玄関のドアから、阿武隈川を渡る冷たい風が通りぬけていく。風に乗って、雨上がりの土と草の匂いや、金木犀の甘い香り、小鳥の声も流れてくる。
モデムとパソコンと携帯電話さえあれば、事務所にいるように仕事ができる。電話で貴田と打ち合わせをしていると、気持ちよさが声に表れるのか「在宅勤務、楽しそうですね」と笑う。桃李舎は先月から産休中の田村が一日2時間、在宅勤務を始めた。貴田も土曜日は在宅勤務にした。それぞれ勤務形態を微調整しながら、快適に仕事ができていると思う。
休憩で散歩に出ると、街角の1枚のポスターに目が留まった。工学院大学の後藤治先生の講演が、ちょうど翌日の土曜日、歩いてすぐの会場であるという。演題は「歴史的建造物の活用が地域を元気にする」だ。翌朝、友人と一緒に出かけた。
予想に反して150席ほどの会場はほぼ満席。福島は未だに原発事故による風評被害が絶えないが、福島市内は事故前の状態に戻っている。こういう話題への意識の高さがそれを物語っている。
後藤先生の講演は、これまでは歴史的価値のある建造物は、国宝や重要文化財に「指定」して「保存」するというのが主流だったが、現在は、登録有形文化財制度の導入で文化財は多様化しており、市民参加型のマネジメントで「登録」して「活用」するのが新しい潮流だという話だった。
「活用」の方法についての説明は事例をあげて具体的でかつ実践的だった。重要文化財の旧善光寺偕行社は郷土資料館として「保存」されていたが、NPOが市と民間の橋渡しになって社交場に再生し、今では地域の人気のスポットになっているという話には、会場からも質問が出た。福岡県の八女町の職人力の話も面白かった。
後半は、さて福島で何をするか?残す価値がある歴史的建造物があれば、建築的な価値だけではなく歴史を調べ、背景にあるエピソードを発掘すること。情報発信するときには、日本の通史に郷土史を位置づけると、理解されやすい。「全体」と「ディテール」の両方が必要という話が印象的だった。
歴史的建造物を再考することは、地域の価値を再考することで、福島を豊かにしてきたものを再発見することだ。講演の後の質問タイムは手を挙げる人が続いた。民家を相続して持て余している人たちもおられたようだ。福島の人たちに、やってみようかなという元気を与える講演だったと思う。友人も「やってみようかなと思う」とつぶやいた。
桃李舎の業務でも、伝統的な建物の耐震改修では、活用や運用についても考える機会が増えている。ちょうどいいタイミングの講演会だった。
福島は果物王国。今は梨とりんごがおいしいけど、もうすぐ柿が出てくる。機会があれば訪れてください。