七夕 フォークダンスの夕べ|トーチカ通信|桃李舎一級建築事務所|大阪の建築構造設計事務所

トーチカ通信

[ 2024.07.10 ]トーチカのイベント

七夕 フォークダンスの夕べ

事務所のすぐそばに、安くておいしい「随心亭」という中華料理屋さんがある。ある日曜日。常連客が集まって飲んでいたときに、一人のご婦人がフォークダンスの公認指導者の試験に合格したとおっしゃった。そんな資格があるんですねぇ、とテーブルがざわめく中で、あちこちから、おめでとう!の声が上がった。

フォークダンス!その言葉の響きが、遠い記憶を瞬く間に引き寄せる。キャンプファイヤーの黄色く揺れる炎と影。オクラホマミキサーで気になる男子の順番がまわってくるときの胸の鼓動。普段はちょっとくたびれ気味の中高年の男女が、しばし10代に戻って思い出話に目を輝かせていた。

そこで私は立ち上がって言った。「みんなでフォークダンスを踊りましょう!場所は提供します。先生、お願いします!」夫は無言で微笑んでいる。私を止められないことを知っているし、行きがかり上、やるしかないと思っているから。

決行は7月7日の日曜日の七夕。夕方4時に決まった。会場は桃李舎がその部分2階を使っている屋根付きのモータープールである。そこは5年前、私たちが結婚式の披露宴を行った会場だ。前日に、夫と二人で汗だくになって、掃除をした。頭に手拭いを巻いた夫はいい相棒だ。

ダンススペースの周りに、5年前に買った照明をぶら下げて、休憩用の丸椅子を並べ、スピーカーとCDラジカセをセットした。学祭の前日を思い出す。準備を終える頃、随心亭のお客さんから冷えた生ビールの差し入れがあった。並んで腰かけ、風に吹かれて飲んだビールは格別だった。

右端の黄色いシャツを着た人が先生の木村さん

さて当日。夕方4時には全員が集まった。先生は公認指導者の木村さん。ご主人が音楽担当で同行してくださった。あとはいつもの常連さん。踊るのはうまい具合に、男女7人ずつの同数で14人だった。ラジオ体操で体の準備をして、いよいよ本番。

最初の曲は「マイムマイム」。先生による解説をまず拝聴する。これはイスラエルの踊り。マイムはヘブライ語で「水」。井戸を掘りあてて、水が湧き出た喜びを表現する踊りだそうだ。だから井戸を囲むように手をつないで大きな輪になる。

マイムマイム。右から2人目が私。桃李舎の25周年のパーティでフラダンスを踊ったときの衣装で。その横の青いシャツが夫。

聞き覚えのあるイントロが流れ出すと、先生の声に耳を澄ませて、右足を左足の前にクロス。左足をその横へ。右足を後ろにクロス。左足をその横へ。それをもう一度、繰り返すうちに、輪が音楽に乗って左に回りだす。

そして両手を挙げながら、中心に向かって水を汲みにいく。「マイム・マイム・マイム・マイム」と前へ4歩。次は後ろに4歩下がりながら、「マイムベッサンソ!」足をクロスさせるのは、ブドウのツルを表していますと先生の声。そうだ、ブドウはイスラエルの象徴だった。

平均年齢は70歳手前ぐらい。笑顔が回る。笑い声が回る。弾む心が一つになる。昔は弾んだ足が、今は油断をするともつれる。でもよろけると、隣の人の手が助けてくれる。いいないいな、人っていいな。開拓民の歓喜が時を経て、私の身体のうちに湧き上がる。音楽がいつまでも鳴りやまないでほしかった。

休憩をはさんで、2曲目はおなじみのオクラホマミキサー。これはアメリカの踊りですと先生の声。男性が内側、女性が外側に並んで、2重の輪を作る。踊りながら回って、パートナーが順番に交替する。そのスタイルをミクサー(mixer)というらしい。

男女のペアーが左手どうしを体の前でつないで、女性が右手の平を上にして肩まで挙げたら、男性が女性の首の後ろから右手を回して手を取って、ララ、ラララララ♪ララ、ラララララ♪と4歩ずつのステップ。向き合って、かかとをトンと地面について、足を引いて、さようなら。そして後ろのパートナーと、はい交代。

昔はすぐ覚えられたのに、今はそうはいかない。先生の姿を目で追いながら、自分の足元ばかりを見てしまう。あっ、右じゃない。左!周りを見ると、男性のエスコートがなんともぎこちない。ビールで丸く飛び出したおなか邪魔になっていたり、リズムがちょっと違ったり。でも、みんな笑ってる。さすがに一番若いカオルさんは、背筋をピンと伸ばして軽快だ。私も真似して、ピン。

随心亭のマスターとママさんは、中国から日本に来た。母国での青春時代にこんなダンスは踊れなかった。今、満面の笑顔で踊っている。あの人も、あの人も、みんな可笑しいくらい真面目だ。いろんなことがある人生だけど、今日は忘れて、ダンス、ダンス。ステップを間違えても、転んでも、笑って起き上がってやり直せばいい。踊り続けよう。人生は続く。

2曲を終えて、もうみんな汗だくだ。心はもう打ち上げの随心亭に飛んでいる。でも先生は、汗で光る額をぬぐいながら、「もう一曲、タタロチカを踊って終わりましょう」とおっしゃった。そこでもう一度、大きな輪になって、ロシア民謡に乗って、ステップを踏んで、膝を叩き、大きな掛け声で両手を挙げて、フィナーレ。大満足の拍手でもってフォークダンスは終わった。