[ 2012.06.29 ]地下発電所
第9回地下発電所 2011年1月28日
テーマ : 地質に関わる技術者から見る環境問題
ゲスト : 井上正三(いのうえ しょうぞう)さん 環境地学研究所 所長
場所 : タツタビル 地下1階 会議室
「事務所の名前は、今は亡き京都教育大学名誉教授の木村春彦先生の「環境地学研究室」から拝借した。今日の話の内容は木村先生から学んだ内容である」と前置きして話し始められた。
現在の環境問題は、地球温暖化(CO2の削減)に矮小化されている。経団連の会長が環境はビジネスになると宣言し、大企業を助けるためのようなエコポイントの発行が始まっているように、温暖化の話は政策的な一面がある。環境問題を矮小化することで、もっと重要なことから眼をそらされていることに気づかなければいけない。
環境破壊の3大要因は、石油化合物、重金属、放射性物質である。これらは生物学的に人間に悪影響を及ぼすものである。
日本の環境問題は、大阪の西淀川区のぜんそくや、イタイイタイ病といった公害問題から始まった。これらは、地域限定の高濃度な環境汚染であったが、現在の汚染は低濃度で広範囲にわたっている。
135億年から140億年前にビッグバンによって宇宙が誕生した。宇宙のガス体が部分的に濃縮され塵のような固体ができた。46億年前、宇宙の塵が集まってできた微惑星、これが地球である。地球は最初、均質な物質でできていたが、重力の法則で、密度の大きなものは急速に沈下し、軽いものが浮上した。このような分層のプロセスを経て、地球は同心球の構造になった。
人類が地上に現れたのは250万年前。地球の誕生から現在までを1年のカレンダーで表現すると、人類が出現するのは12月31日の夕方で、文明が発達したのは午後11時59分ぐらいである。人間は地表のものだけを食べ、道具を作り、進化してきた。進化の過程で必要なものは吸収し、不要なものは排除してきた。
あるとき、人間は地球の奥深くにある物質を発掘する。それは250万年もの間、人類が出会ったことのないものだった。それが石油化合物、重金属、放射性物質である。プラスチックが微生物で分解できないように、これらの物質が体内に入ったときには、一旦、保留となり蓄積される。それがガンの原因にもなる。
またこれらの物質は遺伝子に影響を与える。死産が増え、生物界に奇形の確率が増えているのは明らかに環境汚染が原因である。人間が勝手に地上に持ち込んだこのような非適合物質はあらゆる動植物に悪影響を与え、食物連鎖によって、汚染は拡大し続けている。アトピーや花粉症も、低濃度、広範囲の汚染によって遺伝子情報を狂わされた結果である。
地下資源を地上に持ち運んだことは、人類の原罪である。人類はエデンの園で禁断の果実を食べてしまった。環境問題は、このように地球と人間の進化の歴史をさかのぼって考えなければならない。
人間の営みにおいて、短期的最良は長期的最悪に転換する。楽あれば苦ありである。暑いとクーラーをつける。そのときは快適だが、今原発問題に直面している。目先の便利を追求するうちに、いつの間にか地下資源に依存する社会になり、大きな負の遺産をかかえてしまった。この問題に対する明確な解決策は、いまはまだ無い。
相手を蹴落として生き延びる現在の資本主義経済において、大量生産→大量消費→大量破棄が資源の枯渇を産み出している。これを止めるのは、今の時代に合う世界的な計画経済しかないのではないだろうか。環境問題を考えることは、これから人類がどう生きるかを考えることである。