[ 2018.04.05 ]桃李舎
前回の話を続ける。事務所の運営は、お金が全てではないという信念のもと、経営が二の次になっていた。でもいい仕事をすることと報酬が両立できないのはおかしいというところから中小企業診断士のアドバイスが始まった。
診断士と話して気づいたのは、建築業界の中でしか通用しない常識がたくさんあったことだ。たとえば「アトリエ系」という言葉。大手の組織事務所に対する、我々のような小規模の事務所で、その中でも建築家とパートナーを組む仕事を主業務とする事務所をアトリエ系という。
アトリエ系の事務所のスタッフはいずれ独立してやめるという前提で、お給料が少ないところが多い。どこもそうではないが、比較的意匠事務所にその傾向がある。桃李舎は仕事のスタイルはアトリエ系だが、スタッフの勤続年数が長いので、厚生年金なども整え、アトリエ系の割にはお給料がいい方だという気持ちがあった。
しかし、診断士にいわせると「アトリエ系って何ですか?皆さん立派な一級建築士ですよ。世の中が認める責任ある仕事をされているのだから、見合う報酬をもらいましょう」となる。アトリエという言葉に甘えていた自分に気づいた。
しかし売り上げがないと払えるものも払えない。私のお給料自体がそもそも少ないのだ。すると、「5年で売り上げを2倍、お給料1.5倍を目標にしましょう」と言われた。そういう具体的な数値目標を立てることが大切らしい。
また3人のスタッフ一人ひとりにヒアリングした上でこう言われた。「この事務所は社長(私)の個性が強すぎます。もっと一人ひとりの個性が全面に出て、『桃李舎の○○さんと組みたい』とスタッフの皆さんに仕事が来るようにならないといけません。社長はさみしいかもしれないけど」
その通りだ。さみしいどころかそれは私の願いでもある。そして「まずは皆さん、JSCAの新人賞を目標にしましょう」と言われた。HPにスタッフ紹介のコーナーを作り、スタッフがブログで情報発信するのもいいと。そして各自がこれだけ仕事をするとこれだけ売り上げが伸びるという具体的な話をされた。
実践をして今年度の売り上げは昨年度より1.2倍に伸びた。まず行ったことは、できる範囲での設計料の値上げである。施主の都合による大きな変更に対しては変更料の交渉も行った。頼んでみると案外すんなりOKが出た。それとスタッフの意識の変化が大きいと思う。
3月が決算なので、末日に利益をボーナスで分配した。今年は全額を3人に伝えて、「自分たちで納得できるように分配して」というと、「えっ~!そんなん無理です」という。それで今年も私が決めた。
しかしその後、来年を見据えてか、何やら3人で話し合って勤務状態を客観的に分析できるようにエクセル表を作っていた。これも励みになると思う。4月から京都工芸繊維大学から新卒の新スタッフがやってきて女5人となった。来年の春も笑えるようにがんばろう。