[ 2015.01.02 ]未分類
静かな新年を迎えている。夕方、冷えるなと思ったら窓の外に雪が舞っていた。うっすらと積もっているが、今はもうやんで、冷たく澄んだ空に白い月が浮かんでいる。
母がいない初めての年の瀬は、家の用事が多くて心身ともにヘトヘトになった。お正月といっても喪中だから特別なことをするつもりはなかったが、一人寂しそうにしている父を見て、大晦日は母がやっていたようにやってみようと張り切ったのが、最後にこたえた。
毎年大晦日は事務所で年賀状を書いていた。電話の合図で年越し蕎麦を食べに帰ると、母は炊事場でせわしなく動いていて、父はテーブルに並んだおせち料理をつまみながら晩酌をしていた。見るわけでもないのに、隣の居間のテレビには、紅白歌合戦がかかっていた。それが何十年と続いていたのだ。
昨夜、私は同じように隣の部屋で紅白をかけながら、台所でおせち料理をお重に詰めていた。もう9ヶ月NHKを見ていなかったので、受信料の支払いをやめるつもりだったが、これでできなくなった。
やっと一息ついたのは、薬師丸ひろ子が「Woman“Wの悲劇”から」を歌うあたりだった。これはユーミンの曲だ。手を拭いてテレビの前に座ると、松任谷正隆のピアノで彼女が歌い始めた。その途端、頭の中から一切合財が消え、澄んだ歌声に心を奪われた。「あまちゃん」の「潮騒のメモリー」の衝撃と同じだ。なぜだろう、忘れていた何かが一気に湧き上がって金縛りにあったように動けないのだ。敢えて言葉にすれば、甘美でほろ苦い若き時代への郷愁か。真面目にしっとりと歌う同世代感にうたれて、励まされ、寝ている父をそっと覗いてから、お風呂にお湯をためにいった。
浴槽に、暮れに友人からもらった初風呂用の漢方の入浴剤を浮かべた。屠蘇風呂といって、効能書によると、「香りが浴室にみなぎると、希望の想をつくる天国風呂になる」とある。なるほど、寿ぎの気分が湧き上がり、ゆったりと明るい気持ちになれた。疲れも取れて体が軽い。友達はありがたいものだ。
東洋的な香りに包まれて布団にもぐり、枕元の本に手を伸ばした。 別の友人が、 「私のBook of the Year 2014」と言った『帝国の慰安婦』。高橋源一郎が絶賛していた本である。30日にジュンク堂に走って買ってきた。年越しに読むのは重そうだったが、2015年は戦後70年の節目である。新しい年をこの本から始めようと思った。